第4話 ③


「まずは波のプール行こうよ!」


「お、いいねぇ」


コソコソと千咲ちゃんが寄ってくる。


「雨留!

パーカー脱いじゃいなよ!

慈炎くんドキドキさせられるチャンスだよ!」


慈炎という言葉だけで心臓が跳ねる。

チラリと慈炎を盗み見ると、みんなと楽しそうに何事かを話している。

鹿目には敵わないけど、慈炎も男の子らしく筋肉質で、カッコいい……って、そうじゃない!!

わたしは慌てて無理矢理、慈炎から視線を逸らした。


「む、無理!恥ずかしいよ!!」


「水入っちゃえばほとんど見えないって!」


う、確かに……。

慈炎にも、可愛いって思ってもらいたいし……


わたしは思い切ってジッパーに手をかけ、パーカーを脱いだ。


「うん!やっぱめっちゃ可愛いよ!

行こ行こ!!」


千咲ちゃんの言葉に勇気を貰って、みんなに合流する。

水に入ってしまえば楽しくて、わたしは自分の姿も忘れるくらい、夢中で遊んだ。



「今度さ、スライダー行こうよ!めっちゃ楽しそうじゃない?」


日和ちゃんが指差した先。

すごく高いところから、沢山の青いチューブがでていた。

何をするのかは分からないけど、みんなが口々にいいね!と言って楽しそうにしていたので、深く考えず付いていく。


 下で黄色い大きな二人乗りの浮き輪のようなものをもらい、階段を上がっていく。


「どうやって2人ずつになろうね?

男子女子で分けると3人だし……」


「男女1人ずつでよくね?」


こうしてなんだかんだあり、わたしは慈炎と2人でこれに乗ることになった。


途中でそれぞれ階段が分かれ、慈炎と2人きりになる。

あの日以来、慈炎のことを変に意識してしまって、2人きりになるのをなんとなく避けていたから、なんだか緊張してしまう。

それに、これ2人で乗るって距離近くない?


1人であれこれ考えていると、慈炎がポツリと呟いた。


「なぁ、雨留。

やっぱさ、あとでさっきのパーカー着てくんね……?」


やっぱ、こんな可愛いの、わたしには似合ってなかった?


「あ、や、やっぱ見苦しいよね。

わたしが、こんな……」


慈炎に可愛いって、言って欲しかったんだけどな……。

さっきまでのドキドキが急速に縮んでいく。

でも慌てた顔で慈炎が言ったのは、意外な言葉だった。


「あ、や、じゃなくて、可愛いから!

すげー可愛いから、ほかのやつらがめっちゃ見てるから……。

見せたくない…ってゆーか……」


だんだん尻すぼみになる慈炎の言葉は、わたしをドキドキさせるには十分だった。


「っ、わ、分かった……」


「よかった」


ホッとしたように笑う慈炎を見上げる。


すげー可愛いって、言われた……

顔が、熱い……。


わたしは赤い顔がバレないように下を向いて、一段前をいく慈炎について階段を登っていった。

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