第3話 ⑦


 閻魔には代々子供がひとりしか生まれない。

それは、閻魔がある特殊な力をもって生まれるためである。

その力は極秘で閻魔自身とその妻、そして最も近い側近となるふたつの特別な鬼の家系だけしか知ることはない。

 しかし、ある日ふたつの産声が地獄に響き渡った。

なんと産まれた閻魔の子供が双子だったのである。

地獄は騒然となりおおいに戸惑った。

先に産まれた子は嘉炎、あとに産まれた子は慈炎と名付けられた。

力は後に産まれた慈炎にだけ引き継がれた。

それが不幸の始まりとなる。

 

 小さいころ、兄弟は仲良く育った。

閻魔ははじめこそ戸惑ったが、そんなふたりを見て、力を引き継いだ慈炎を閻魔とし、嘉炎は補佐として兄弟で助け合ってくれることを望んだ。

 しかしそれをよく思わない者がいた。

嘉炎の乳母のささめである。

細は自分がわが子のように育てた嘉炎が、兄であるにも関わらず補佐という地位に就くことをよく思わなかった。

いつしか慈炎を亡き者にすれば嘉炎に閻魔の力が宿ると妄信し、慈炎を亡き者にしようと画策する。

 しかし相手は閻魔の子。

手厚く守られていたためなかなかその機会は訪れなかった。


そして運命のときはやってきた―— 


 慈炎が成人の儀を行い15歳になったとき、鹿目と共に人間界へと赴いた。

鹿目が目を離した隙に、細が放った刺客により慈炎が重症を負う。

一命は取りとめたが、慈炎は3日ものあいだ目を覚まさなかった。

鹿目は責任を感じ命を断とうとしたが、それを嘉炎が止めた。

鹿目が命を落としたと知れば、目を覚ましたとき慈炎が悲しむと。

その命で生涯、弟を守ってほしいと。

 細は、嘉炎の減刑の嘆願の甲斐も虚しく、重罪人として地獄の業火に生涯身を焼かれる最も重い刑に処された。

絶望した嘉炎自身も、後を追うように炎の中に身を投げてしまった。



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