第3話 ①
土曜の午後、買い物に行くという鹿目を見送ってから、本を読むために縁側に面した居間へと向かう。
下界に来て、人間の生活の”普通”がまったくわかっていなかったことに気づき、勉強代わりに読んでいるのだが、最近は天気がいいので縁側に座布団を持ち出して読むのが日課になっていた。
いつものように座布団を一枚持って縁側に出ると、慈炎が丸くなって眠っていた。
お昼を食べた後から見ていないなと思っていたら、こんなところで昼寝をしていたらしい。
窓越しの日差しを目いっぱい浴びて眠る慈炎は、まるで猫みたいだ。
いくら暖かいとはいえ、このまま寝ていたら風邪をひいちゃいそうだな。
わたしは、自分の部屋に行くと、普段使っている布団を引っ張って縁側に戻った。
慈炎の体に布団をかけ、持ってきていた座布団を半分に折り枕にして、起こさないようにそっと頭を持ち上げその下に置く。
あ、慈炎って、意外とまつ毛長いんだな……
最初はすごく怖かった慈炎のつり目も、今はすっかり見慣れてしまった。
目をつぶってる今は、すごくあどけなく見えて、かわいくさえある。
幸せそうな寝顔を覗き込んでいると、いきなり慈炎が、がばりと起き上がった。
がつん!!
お互いのおでこをぶつけて、それぞれその場にうずくまる。
「———っぅ……」
「ってー……。
って、あ!雨留!!
ごめん!!平気か!?」
慈炎が真っ赤になったおでこを擦りながらわたしを覗き込む。
「だ、大丈夫……。
こっちこそごめんね。
わたしが覗き込んでたから……」
まだジンジンするおでこを擦りながら笑ってみせると、慈炎がぷ、と吹き出す。
「なに?」
「雨留、はは、おでこ真っ赤!」
「慈炎もだよ!」
おでこを擦りながら、ふたりでしばらく笑いあう。
「オレ、なんか冷やすやつとってくる」
「あ、私も行く」
キッチンへ向かう慈炎を追いかけようとするが、手で制して止められる。
「その布団、雨留のでしょ?
掛けてくれたお礼。
だから雨留はその本読んでろよ」
そういうと慈炎は居間を出ていった。
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