第2話 ⑦
「雨留!!」
なんとなく鹿目を見ながらそんなことを思っていると、慈炎が大きな声で私を呼んだ。
「ん!?何??」
びっくりして慈炎を見る。
「あー、なんだ。えー、と。
明日、そう、明日、楽しみだな」
困ったように頭をかいた慈炎は、珍しく歯切れが悪い。
「う、うん……?」
いきなり変わった話題に戸惑いながらも返事をすると、どこか安心したように慈炎が笑った。
「素直にオレの方を見て、とおっしゃればいいのに……」
ぼそりと鹿目が呟く。
「は?そんなんじゃねーし」
「米粒飛んでますよ。
食べながらしゃべらないでください。
行儀が悪いです」
顔を真っ赤にしている慈炎とは対照的に、鹿目は涼しい顔でごはんを食べ続ける。
「ふたりって本当に仲がいいよね。
いつから一緒にいるの?」
一か月と少し一緒にいるけど、そういえばふたりの出会いとかは聞いたことがなかった。
「なんで今の会話を聞いて仲いいって思うのかわかんねーけど……。
まぁ、付き合いでいったら、オレが生まれたときから、かな。
鹿目のかーちゃんが、オレの乳母だったんだ。
で、年も近いから、よく遊んでた」
「そうなんだ!
ふたりは幼馴染なんだね」
「ま、そうだな。
鹿目の家系は代々閻魔の側近を務めているから、鹿目はそのままオレの従者になったんだ」
「ふふ、小さいころのふたりも見てみたいな」
きっと今みたいに、ふざけあって仲良しだったのだろう。
「いつか、地獄に来ることがあったら、写真見せてやるよ」
「うん!」
地獄。
ふつうだったら行くことのない場所。
怖い場所のイメージしかなかったけど、慈炎や鹿目が育った場所なら、見てみたいと思った。
笑顔で話す慈炎とは対照的に暗い顔をしている鹿目に、わたしはこのときちっとも気づいていなかった。
ふたりの歴史は楽しいことばかりではなかったことを、この時のわたしはまったく知らなかったのだ。
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