第2話 ⑥
「雨留!初めての友達おめでと~!!」
夕食の席、慈炎がお茶の入ったグラスをわたしのグラスにチンっと当てる。
「ありがとう!」
わたしの声も、昨日とは打って変わって弾んでしまう。
学校からの帰り道にも、今日の出来事を話す前に、教室でわたしのことを見てくれていたふたりから激励の言葉をもらった。
まさか一度のあいさつで、あんなに事態が変わるなんて思ってもみなかったから、今でも信じられないぐらいなのだが……。
「頑張ったもんな!えらいえらい!」
なでなでと、慈炎に小さい子みたいに頭を撫でられる。
慈炎はなんだか突然、でもいつも自然に触れてくるから、わたしはそのたびにドキリとしてしまう。
やっぱ、引きこもり歴が長いからかな……
ドキドキしながら、ぱくりと一口、煮魚を口の中にほおりこむ。
「ん、これ、おいしい!」
油がのった、でもあっさりした白身魚が、甘めのしょうがのきいたタレに絡んですごくおいしい。
「あ、それは今日、松山さんに頂いたんです。
旦那さんがたくさん釣ってこられたそうで」
鹿目がいつもの淡々とした無表情で、慈炎のご飯のおかわりをつぎながら言う。
「ちなみにその添えられているネギは、近藤さんに頂きました」
「誰だよ、松山さんに、近藤さん!!
お前、どんだけ人たらしなんだよ!!」
「近所に住んでいるマダムです。
別に誰もたらした覚えはありませんが」
「鹿目すごい……。
どうやったらそんな短時間でたくさんの人と仲良くなれるの?」
「いや、これはこれで問題だろ?」
「わたしは何もしていませんが、ありがたいことに、あちらから来てくださるんです」
慈炎の突っ込みを華麗にスルーしながら、鹿目が涼しい顔で白米を口に運ぶ。
「尊敬する!!」
そう言って真剣な目で見つめると、鹿目が「尊敬することなんて、何もないでしょう」と、ふ、と柔らかく笑った。
なんか、普段笑わない人の笑顔って、破壊力あるな……。
みんなこれにやられるのかも!!
鹿目がモテる理由が、なんとなくわかってしまった気がした。
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