第1話 ⑤
「それはそうと、雨留はなんで人間界に来たんだ?
なんか用事か?」
そう言われて初めて、わたしは堕ちてきた経緯など、なにも話せていなかったことに気づく。
80年間引きこもっていたことや、業を煮やした父親に人間界に落とされたことを簡単に説明した。
今日初めて会った人に話すには恥ずかしすぎる経緯だが、見ず知らずのわたしを助けてくれた二人に嘘はつきたくなかった。
「は、恥ずかしいよね。
勘当されて人間界に落とされるなんて……」
神が人間界に落とされるなんて、わたし以外には聞いたこともない。
二人を見ることができずに俯いたそのとき―——
「そんなことねーよ!!」
慈炎が急に大きな声を出す。
びっくりして見上げると、慈炎が真剣な表情でわたしを見ていた。
「神様の命は無限なんだろ?
過去は変えらんねーかもしれないけど、雨留は今からなんだってできんだよ!!
一緒に人間のこと勉強して、雨留にしかできないこと見つけて、雨留の親父を驚かしてやろーぜ!」
眩しい笑顔、差し出された力強い手を思わず掴む。
「っ、うん!ありがとう!慈炎」
「おう。へへ、お互い頑張ろうな」
右も左もわからない地上でひとりだったら、わたしはきっと今も途方に暮れてしまっていただろう。
今は自分のことで精いっぱいだけど、いつかふたりに恩返しがしたい。
慈炎の温かい手を握りながら、わたしはそんなことを思った。
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