第1話 ⑥


「雨留さまも学校に行かれてはどうでしょう。」


「学校?」


鹿目の突然の申し出に、わたしは目を丸くする。


「はい。

学校というのは、人間の子供たちが集団で学ぶ場所なのですが、実は慈炎さまとわたしも来月から通うことになっているのです。

人間のことを知るよい機会かと思うのですが」


「あ、いいじゃん!

雨留も一緒に学校行こうぜ!

人間がたくさんいる場所にいりゃ、人間のしてほしいことも分かってくるだろ!」


学校———

それはわたしの憧れの場所だった。

天上にいたころ、部屋からいつも覗いていた人間の世界。

勉強、友情、それに恋、いつも一生懸命な若者たちは、わたしには眩しくて、羨ましくて、一日中飽きもせずに眺めていたっけ。


「わたし、学校に行ってみたい……です」


「では、お手続きはわたしが。

慈炎さまとわたしはいとこ同士、雨留さまはその幼馴染でこの家に居候している、という設定でよろしいでしょうか」


「鹿目、お前ホントそういうこと、頭の回転早いよなー」


「出来の悪い上司を持つと、こうならざるを得ないだけです」


「おい!せっかく褒めてんだから、そこは素直に受け取れよ!」


「はいはい。ドウモアリガトウゴザイマス」


「棒読み!!」


ふたりの主従コントにいつ割って入っていいのかわからなくて、なかなか口を開くことができない。

でも、助けて介抱してもらったうえに、これ以上見ず知らずの二人に迷惑をかける訳にはいかない。


「わたし、そこまでしてもらう訳には……。

あの、住む場所でしたら、どこか樹上か、神社の土地神さまに間借りしますし、学校も、なんとか自分で……」


「厳しいことを言うようですが、この世界での女性の野宿は大変危険です。

雨留さまは神様なので、そこらへんは回避できるのかもしれませんが、それでもおすすめはできません。

神社のことは我々には分かりかねますが、学校に通うなら住所の問題などが出てくるかと思います。

それに、人間界には戸籍やお金など、その他にもややこしいルールがたくさんあるんです。

それを守らないと、人間と共に生活するのは非常に難しいのです」


「そう、なんですか……」


わたしは人間界のことを、何一つ分かっていない。

今更後悔しても遅いのだが、自分の無知が恥ずかしかった。

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