第5話

王女の話の続きによると、首謀者の疑いのある庶兄王子は普段は宮殿の末端の一角で生活して父王から精絶国との境界付近の軍の指揮を任されているとのこと。もっとも隣国といってもさらに小国だから軍の規模はさほどではない。それに本人は楼蘭からは滅多には出ていないので首謀者という証拠もほとんどない

『わかりました。では、その兄王と面会できる事は可能でしょうか?』

カルブンクルス紅玉はそのように言う

(相手がどんなヤツかも分からないのに手の打ちようがない。だったら威力偵察してやろうじゃないの)

ウィスタリア王女は困ったように

『兄は私とは顔を合わそうともしませんので、私から使い送ってもおそらく無駄でしょう』

『何も姫さまの使いと馬鹿正直に言うつもりはありませんよ。王様に雇われたとか、初めて宮殿に仕えたので場所分からず迷いこんだとか手はいくらでも』

それでも王女は首を縦に振ろうとしないので

(コレ相当仲悪いみたいね。下手に動いてやぶ蛇になるといけないわ。暫くは自重しようっと)

『それよりも紅玉さん、東国の駐屯軍に行って屯田地での事件について打ち合わせしてきてくれませんか?』

『承知いたしました』

(使いに行く途中で迷ったふりして兄王子の部屋の様子うかがうぐらいは良いでしょ)

算段つけると駐屯地の場所を聞いて廊下に出る。外で待機していた王女の侍女に宮殿の位置情報を簡単に聞いてから王子の部屋の場所に向かう

廊下には大夏(バクトリア)の地から影響受けたという彫像が何体も配置されて初めて見る像に眼を奪われる

(ふぅん…そういえば大夏国はあたしの御先祖様たちが匈奴に追われて逃げた土地と聞いてる。そこを占領した先の支配者層が好んで神話の登場人物を像にしたとか…)

アテナ女神の像を見ると

(女神なのに物騒な出で立ちしてるわね…って、他人の事いえないか…)

突然前方から誰かが疾風のように駆け込んできて紅玉に向かって突進してくる。慌てて脇に間一髪で避ける。そいつはさっさと去っていった。一瞬しか見てないのでハッキリした人物像は掴めてない

(男のような、女のような、覆面つけて歳は不明…体格は男にしては柳腰みたいだし、女としては線が濃い…何やら黄色の腰帯らしいものだけは印象に残ってる)

背丈は男だと小柄、女だと大柄で通じそうだから今のところどちらとも言えない

『賊だ!宝物庫から賊が逃げ出したぞ‼️』

追う警備兵たち。一応紅玉も取り調べを受けたが王女の護衛と判り放免される

(…この分では王子の部屋なんか行ったら賊の関係者と疑われるかもしれないし、今日のところは大人しく任務を優先した方が無難みたいね)


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