第3話

ウィスタリア王女は店を出る

『一足先に御戻りを。私は術に使う薬草を仕入れてから戻ります』

青娥が言うと王女は頷いてさっさと行ってしまった

『師父、お久しぶりです』

例の少年が挨拶しようとすると

『それは止めてって言ってるでしょ。師弟の関係は無しって始めに言ってあるはず。私が術を教えたのも単なる気まぐれ』

『はいはい、で今日は何故ここに?』

『カルブンクルスさん、あなたこそどうしてこんな所にいるのよ?男の成りをして』

『しっ…まさかいくら武人の子とはいえ、娘の姿で旅できる訳ないでしょ』

『それもそうね』

カルブンクルス少年、いや男装の少女はさらに声を潜め

『行方不明の父を探しに来たのです。都護府には漢人の叔父上が部隊長勤めているから、そこに行こうかなと。急ぐ旅でもないし見聞広める意味もこめて』

『あらあら大変ねえ…』

青娥は少し思案して

『そうそう、私は数年前にさっきの王女と東国について学んだのだけど、あと数日したら亀茲に行かないといけないの。貴女代わりに王女の警護役引き受けてくれない?私の弟子という事にするから』

『本当にボクは弟子なんですが、というか師弟関係はイヤとかさっき』

『細かい事言わないの、カルブンクルスさん』

『それは構いませんが、亀茲に何しに?』

『素敵な殿方見つけに』

『…またそのような冗談を』

ふざけた返事するぐらいだから本当の目的は言うつもりは無さそうだなと


王宮

大国と比べると慎ましいが、それでも小国なりに荘厳な石造りの建物群

その中の一室にウィスタリア王女の部屋がある

『という訳で、私の後任として弟子のカルブンクルスが務めます』

青娥が説明すると姫さまは頷く

『あらっ、さっきの酒場の貴公子じゃないの。それにしても貴女が弟子ねぇ…なかなかイケメンですわね。もしかして容姿に惚れこんだとか』

王女はまじまじとカルブンクルスを見つめる

(この姫さま、もしかしてあたしの男装気づいてないの?)

カルブンクルスは半ば呆れたような表情を浮かべた

『見た目だけでなく弟子は才知優れてますのよ。姫さまの剣術と善き相棒務まるかと』

『カルブンクルス…赤い宝石という意味の名前ね。東国風に言うと紅玉さん』

『張掖に住んでた時にカルブンクルスでは長いので紅玉と名前併用して使ってました。お好きなようにお呼びください』

青娥は

『では、私は亀茲に出る支度を』

『頼みますわ。くれぐれも向こうでは気をつけてね』

(師父と姫さまは何か魂胆あって亀茲行きを企んでいるようね。どのみちあたしは師父の役に立てれば充分)

カルブンクルス紅玉は頷く




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