第18話「うつ病と脳卒中」

父「仕事をしてから、夜間専門学校に行くのは、思っていたより大変だった」


娘「忙しかった? 若い女の子とかいなかったの?」

父「若い女の子はけっこういたよ。将来、デザイナーやイラストレーターを目指している人なんかね。実際にイラストレーターになった子もいる」

娘「お父さんは、何を目指していたの?」

父「俺は仕事で使う、ちょっとしたイラストや文字なんかを勉強したんだけど、その当時は、手書きで広告を作っていたんだ」


娘「まだパソコンは無かった?」


父「仕事に使えるレベルの物は無かった。ファックスも文字が荒くて読みづらくて、数とかは文字が潰れて読めなのがあった」

娘「けっこう大変だったの?」

父「広告の多い年末年始の時期は、デザイナーの人達は会社に布団を持って来て、会社の通路で寝てたよ」


娘「昭和のドラマに出てくるやつみたいだ」

父「あの頃は、とにかく働けって感じで、『熱があるから休ませて下さい』なんて言ったら、根性の無い奴だと言われる時代だった。俺も頑張って勉強して、最初の1年は睡眠時間が5時間くらいだった」


娘「5時間は少ないね。体壊しちゃうよ」

父「ああ、1年たったら頭がおかしくなった」

娘「えっ!? うつ病?」

父「病院には行かなかったから、うつ病かノイローゼかわからないが、自分でもおかしいと思った」


娘「お父さん、病院いかないね。なにか症状はあったの? 幻覚や幻聴とか……」

父「いや、幻覚や幻聴は無かったが、頭の回転が悪くなって、ぼ~っとして人と話さなくなった。車に飛びこもうか?とか、カッターを持っていたら手を切ろうか?と考えるんだ。別に死ぬ気なんかまったくないのに、誰かに押されるようにそんなことを考えるんだ」


娘「危ないね!」

父「危なかった。自分でもやばいと思って、親父の健康法教室に通うことにしたんだ」

娘「おじいさんの導引を教えるやつ? 昔からやっていたんだ」


父「土曜日の夜にやっていたよ。あれは、親父の趣味だな」

娘「あたしも、それで導引を教わったわ」

父「俺は、めんどくさいからずっとやらなかったんだ。久しぶりに行ったら、そこにお母さんがいたんだ」


娘「お母さんが習いに来てたの?」

父「お母さん、脳卒中になったんだ。車椅子で健康法教室に来ていたよ」


娘「脳卒中って、お母さん若い時でしょ?」


父「俺と初めてデートして、しばらくしてかららしいから、1年ちょっと前らしい。お母さんは3月生まれだから、たぶん22歳の時だな」

娘「そんなに若くてなるの?」

父「お母さん、看護師さんで働いて、自動車の教習所にも通っていたから、あまり寝ていなかったみたいだね。脳出血らしいけど手術はできない所だったらしい」


娘「病院のリハビリはやらなかったの?」

父「病院のリハビリは入院中に半年やったけど、上手くいかなかったらしい。それで親父の健康法教室に通うようになったんだって」


娘「お父さんと縁があったのね」

父「そうなんだ。頭がやられた者どうしで、妙に波長が合って仲良くなった」

娘「同病相哀れむってやつ?」

父「そうだな、お母さんがいたから親父の健康法教室に通うのも楽しかったよ」


娘「おじいさん、どんな技を教えたの?」


父「頭を修復するには、まず眠ることだって言って、寝る前に足湯をした」

娘「なるほどね〜っ」

父「わかるのか?」

娘「わかるわよ、あたしもおじいさんに教わったから。足湯で腸を温めてから眠ると免疫力が上がるのとミトコンドリアが働くから体の修復をしてくれるんでしょう?」


父「ほ〜っ、凄いな。そこまで知っているのか、当時、家に湯沸かし器がなかったので、俺はヤカンを2つガスコンロに置いてお湯を沸かして、大きなバケツに40度くらいのお湯を作り足を入れていたんだ。熱いお湯を継ぎ足して温度を上げて足が赤くなるくらいまで温めて15~20分くらいだな、足をタオルで拭いてバケツはかたずけないですぐに寝た」


娘「今なら湯沸かし器と電気ポットがあるから簡単なのにね」

父「湯沸かし器があっても、足湯をするのはけっこうめんどくさいぞ。あの時は、足湯をして眠ると翌朝、頭がスッキリするのが分かったから毎日やっていたがな……」


娘「おじいさんが教えたのは、足湯だけだったの?」

父「あとは、大豆を食べろと言われて、味噌汁は毎朝飲んで、お昼に“おから”をよく食べた」

娘「それは、メラトニンを出すためね。そんな昔におじいさんは気づいていたのね」

父「眠たくなるホルモン、メラトニンか。今ならわかるが、当時は意味もわからず食べていたよ。親父も体験的に知っていたが、ホルモンのことまではわからなかったと思う。免疫やミトコンドリアについても当時は、まだ分かっていなかったと思う」


娘「免疫もミトコンドリアも分かってきたのは最近かもね。おじいさん、よく足湯が効くことを知っていたわね」

父「仙術は体験的にこうすれば良いってことを見つけていたのだと思う。あと、水の姿勢もよくやった。それと月の姿勢だな。他にもいろいろやったぞ。お母さんも頭の修復のため足湯は毎日やっていたし、薬草風呂にも入っていた」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る