第2話「ナオちゃん。身長2m」
娘「おかえり」
父「あぁ、いたのか。ただいま」
三日月家の茶の間、父親の勘蔵が昼間に帰ってきた。
娘「お父さん、今日は早いね。有休だったの?」
父「昨日、お葬式だったろ。だから、今日は昼で帰ってきた」
娘「お父さんの同級生の人ね」
父「
娘「あの身長2mくらいの人?」
父「そう。小学校から知ってたのにな……車でぶつかって頭を打って即死だって……」
娘「それは気の毒ね……」
父「見通しの良い道で、どちらかが対向車線をはみ出したらしい」
娘「怖いね、お父さんも気を付けてね……」
父「対向車線をはみ出してこられたら、どうにもならないな……冬子、お前は仕事は休みか?」
娘「うん、今日は休みだよ。お父さん、ご飯は食べたの? 何か作ろうか?」
父「会社の帰りに食べてきた。地獄ラーメン」
娘「えっ、あの新しく出来たラーメン屋さん!? 美味しかった?」
父「美味しかったよ。地獄の一丁目から十丁目まであってな、辛さが増していくんだ。俺は三丁目を頼んだんだが、けっこう辛かったな」
娘「いいな〜あたしも行きたい」
父「こんど行くか? 辛いだけじゃなくてスープも美味かったよ。野菜も多くてチャーシューも厚切りなんだが柔らかくて食べやすかった」
娘「あたしのお店に来るお客さんも地獄ラーメンを食べたって言う人が多いのよ。十丁目を食べたっていう女のお客さんがいて、ラーメンは食べれたけど、翌朝のトイレが大変だったんだって」
父「辛い物は食べる時も辛いが、出す時も辛いもんな、なんなんだろうなあれは? しかし、本当に地獄があって痛い思いをするのはいやだな……」
娘「そういえば、最近、お父さんトイレで痛いって騒がないね」
父「トイレ? あれか!? あれはもう痛くないんだ。出血もない」
娘「治ったの? 病院にいった?」
父「いや、結局、病院には行かなかった。やっぱり恥ずかしいもんな、それに手術しましょうなんて言われたら嫌だからな」
娘「そんなこと言って、がんで手遅れになったら大変だよ」
父「ああ、そうだな……アメリカの女優さんが、お尻のがんで亡くなったのはショックだったな、あんな綺麗な人が亡くなるんだな……俺は高校生の時、部屋に彼女のポスターを貼っていたんだ、金髪で笑った顔が最高だった!」
娘「あの女優さんね、あたしも映画で見た」
父「あのくらい綺麗な女の人はトイレなんか行かないと思っていたな」
娘「そんなわけないじゃない……」
父「昭和のアイドルはトイレに行かなかったんだぞ」
娘「何それ?」
父「イメージかな? 清純で花のような感じがしていた」
娘「お尻の病気は女性の方が多いのよ」
父「現実に戻さないでくれ〜 中年のおじさんがお尻が痛いって言うのは笑えるけど、女性がお尻が痛いっていうのは、あまり聞きたくないな……」
娘「しょうがないじゃない。構造的に女性の方がなりやすいんだから、誰にも言えなくて、病院にも行けずに悩んでいる人は多いと思うよ」
父「そうだろうな、男の俺でさえ病院でお尻を見せるのは嫌だもんな。ドラッグストアでお尻の薬を買うのも緊張するよ」
娘「薬は買ってたんだ!?」
父「買ってたよ。安いやつだけどな、薬を塗らないと痛くてな、座薬も入れていたな」
娘「今も座薬を入れてるの?」
父「入れてないよ。もう痛くないから、塗り薬も使っていない」
娘「ぜんぜん痛くないの? 前は、あんなに大騒ぎしていたのに……」
父「全然痛くないよ。むしろ気持ちいいよ」
娘「治し方ってあるの?」
父「治し方は簡単だよ。わかってしまえば簡単だが、俺も気がつくまで5年もかかったんだぞ!」
娘「どうやるの?」
父「
娘「うん、お尻をもむのと、肛門を押すやつでしょ?」
父「基本的にはそれなんだよ。若い時ならそれで治るんだが、50歳になった時には、それで治らなくなったんだ。まったく5年間も無駄な努力で悩んでいた……治し方のヒントをくれたのは恐竜とナオちゃんだった」
娘「なにそれ、教えてよ!」
父「知りたいのか?」
娘「知りたいよ!」
父「お前も痔なのか?」
娘「バ、バカ……あたしは大丈夫よ」
顔を赤らめる冬子。
父「お前に痔の治し方を教えたら、俺は天国に行けるかな……ナオちゃんも無事、天国にいけたかな?」
三日月家の茶の間で話す何気ない話。
58歳の父、勘蔵と、娘の冬子、27歳の会話。
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