第42話「餃子のフタ」

父「ところで、冬子とうこ、晩のおかずはなんだ?」


娘「今晩? 餃子だよ。お母さんが仕事の帰りに買って帰るって、メールがあった」

父「餃子か、冷凍のやつも旨いよな、安いし」


娘「今日は、冷凍じゃなくて、スーパーで作っている生餃子だって」

父「あぁ、あれか、あれ旨いよな!! 冷凍より旨いよ」

娘「前に、お父さんが旨いって言ったから、また買うみたい。餃子記念日だね!」


父「しょっちゅう記念日になるじゃないか……前に俺、自分で餃子を作るのに凝って、よく作ってたからな」

娘「あたしが中学生の時だよ、あれは美味しかった! 皮がカリッとして厚いから、ご飯もいらないで餃子だけでお腹がふくれたわ」


父「あれは、本当は、あまり皮が上手く作れなかったんだ。皮を薄く伸ばすには熟練がいるんだろうな、粉から作ると皮がかなり厚くないと具が包めないんだ」

娘「そうだったの、でも、あの厚い皮の餃子も美味しいよ。また、作ってよ!」


父「あれ、けっこう面倒くさくてな……前は、何故か夢中で作っていたが、今は冷凍の餃子でいいや……」

娘「冷凍より、お父さんの餃子の方が美味しいって」

父「そりゃ〜材料も良いのを使うからな……冷凍餃子は安いし、最近のはフタもしないでいいんだぞ! 不思議だな」

娘「そうだってね。全部じゃないけど、フタをしないで作れるみたいね。フタを洗う手間がはぶけていいね」


父「そうだ、そこだよな」


娘「えっ、どこなの?」

父「俺、餃子作っている時、フライパンのフタって洗わなかったんだ」

娘「えっ、なんで?」

父「フタって洗わないものだと思っていたから……」

娘「どういうこと?」

父「フタを洗うっていう考えがなかった」

娘「あんなに作ってたのに?」

父「そう、加熱されるから食べる分には問題ないだろうが、油だけになって、お母さんに怒られて、やっと気がついた」


娘「それは……お母さん怒るわ……」


父「頭にないと、ぜんぜん気が付かない。最初に教えられたらわかるんだろうけど、なかなか気が付かないもんだ」


娘「そういうものなの?」

父「そうだよ。親とか学校で教わらないと、簡単な事なのに、なかなかわからんぞ」

娘「男子も家庭科はやるもんね」

父「料理だけじゃないけどな。俺が、お母さんと一緒になった時、トイレを汚すって嫌がられた事があった」


娘「お父さん、トイレ汚していたの!?」


父「汚したというか、普通だと思うけど、洋式トイレでオシッコをすると、男性は立ってするから便器の縁に少しこぼれるんだよ」


娘「あ〜っ、それね……最近の男性は座ってオシッコする人も多いんだって」

父「和式トイレのころは、男性用の立ってするオシッコ用の便器があったが、洋式トイレになるとオシッコ用の便器は家庭には無くなってしまった」


娘「会社とかには男性用のはあるの?」

父「大勢が使うトイレには、ちゃんと男性用のオシッコ専用便器がある。家庭用にも付ければいいんだろうが、付いてる家は少ないだろうな」


娘「お父さんも家では座ってしてるの?」

父「いゃ、それは面倒なので立ってしてる。でも、用を足した後、トイレットペーパーでさっと縁に垂れたのを拭いているよ」

娘「そうだったの、知らなかった」


父「ちょっとしたことだけど、確かに便器が汚れていると気分が悪くなるな、俺も昔は全く気にしなかったが、言われて初めて気がついた。こういうのも小学校で教えるといいな」


娘「そうね、それは教えた方がいいかな? 判断がちょっと難しいね」

父「トイレットペーパーを三角に折るのは小学校で教えているらしいぞ。近所のテッちゃんが言っていた」

娘「そうなの? あれも手で触るから良くないって問題になった事があったね」


父「なにがいいかなんて決まっているわけじゃないから指導者しだいなんだろうな。バスなんかでも最近やたらとバスが完全に停車してから席を立って下さいとか、マスクをして乗車して下さいとかうるさく言うようになった」

娘「そうだね。あたしもバスが動いている時に席を立ったら注意された」

父「あれもバス会社の上の人が、そういうふうに指導したから運転手の人がお客さんに言うようになったんだと思う。中には偉そうに怒り出す運転手までいる」

娘「いるね。だいたいは優しい運転手さんなんだけど、車内のバックミラーを見て大声で注意する運転手さんがたまにいて、高齢者にも言うから、あれも考えもんだね」


父「上の者がちゃんと教えないと、それが正しいんだと思いこんで偉そうにする奴が出るから、教えるのも難しいな。いままで何十年もバスが動いている時に立っても何にも言われなかったのにな……」

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