第38話「糞かきべら」
父「車椅子の人って腰から下の感覚が無い人がいるんだって。だから、そういう人は便意も尿意もないらしい」
娘「便意がなかったら、どうやって出すのかしら?」
父「薬を使って出したり、自分でお腹を押したりして出すみたいだ、何時間もかけて出す人もいるらしい」
娘「それは大変ね。お腹に力を入れて出すってことができないのね……」
父「自分の指を入れて出す人も多いみたいだけど、指を入れて便を崩すこはできるけど、かき出す事はできないだろう」
娘「そうよね、引っ張り出すには何か先が曲っている物を使うか、両側からはさんで出すかよね」
父「そうだろうな、昔は“糞べら”と言う定規のような木のへらでお尻を拭いていたんだけど“糞かきべら”と言う言葉もあるので、俺は中に入れてかき出すものもあったと思うんだ」
娘「そういうのも見つかっているの?」
父「いや、これは想像だけど、たぶん指より細い太さで先が孫の手みたいに曲っているものを使い、かき出していたんじゃないかと思う」
娘「ありそうね、竹で作るのは難しくはないんじゃない?」
父「俺も、昔の人は竹で作っていたと思うんだ、昔って食料が少ないから、消化できない変な物を食べてお腹の中で詰まった人も多いと思う。飢饉とかあって食べる物が無かったらしいし、戦争で南方に行った兵隊さんも補給艦が攻撃されて沈没してしまい、食べる物が無くて木の皮とか食べ物では無い物も食べて、お腹の中で詰まり便が出せず軍医が掻き出した記録を読んだことがある」
娘「消化できない物なら詰まってしまうわね……現代でも出せなくて病院に行く人はいるみたいよ」
父「浣腸で出ればいいけど、出ないと金属のヘラのような物を突っ込んで、もう1本先の曲った金属を入れてかき出すのかな?」
娘「詳しい事はわからないけど、そんな感じじゃない? お父さんはどうやって出したの?」
父「俺か……あまり娘に話せるような話しじゃないぞ……聞いて後悔するなよ」
娘「大丈夫だから、寝たきりになたらオシメ交換してあげるから」
父「ほんとうか? 指切りするか?」
娘「もう……するから、ほら」
冬子が小指を立てて差し出す。
娘・父「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の〜〜ます。指切った!」
父「……そういえば、誰かと何かで昔、指切りしたんだけど、思い出せないな……」
娘「誰かと何かって、何も思い出せないの?」
父「ぼんやりだが、指きりしたような……」
娘「何なのそれ……あたしと指切りしたのも忘れるんじゃないの?」
父「何の話ししてたんだっけ?」
娘「……どうやって詰まっていたのを出したかよ!」
父「あ〜〜っ、あれか……あれは、最初は指を入れた。いくらがんばっても出せないけど、出口にあるのは分かるんだ。しょうがないから指を入れてみたら、すぐそばにあるんだ。だけど出せない」
娘「指じゃ無理なの?」
父「俺は出せなかった。それで割り箸を入れてみた、割り箸で細かく砕いて出そうと思って」
娘「それで出たの?」
父「いや、割り箸はすぐに折れた。焼き肉で肉をはさむやつあるだろ」
娘「えっ、焼き肉? “トング”の事?」
父「トングっていうのか、あれ。カニのハサミみたいなやつ」
娘「うん、たぶんトングだと思う」
父「そうか、あれの小さい物はないかと探したんだ、角砂糖を挟むやつとか?」
娘「まさか、使ったの?」
父「いや、それは見つからなかった、探していたらスプーンがあった。大きいのと小さなスプーンが……」
娘「あ〜〜っ、あれかな?」
父「それで、大きいスプーンは手で持つ方を挿し込んで、小さいスプーンも入れて少しづつ……」
娘「掻き出したの?」
頷く勘蔵。
娘「そのスプーンは、お父さん専用ね」
父「もう捨てた! 安心してくれ。そんなことをしてたら便意が来て、なんとか出せたんだ」
娘「良かったね……」
父「周りは○○だらけで、ひどいことになっていたが、そんな事言ってる場合じゃなかったからな……出た時はトイレの神様に感謝したよ」
娘「そんなひどい事になるの?」
父「あれはひどかった、和式の姿勢の方がいいかと思って板の間の上にしようと本気で思った」
娘「ビニールくらいひいてよ」
父「とにかく出したくて、他の事は全く考えなかった、このまま出せないと救急車を呼ぼうかと考えたからな、最悪は手術もしかたないと考えてた」
娘「あたしが引っ張り出した方が良かったんじゃない?」
父「いくら苦しくても、あの姿は娘に見せたくないな、でも、もし、またなったら……いゃ、考えるのは止めよう。ホタテの耳は良く噛んで食べればいいんだ。食べる前にハサミで細かくするか!?」
娘「指サックみたいに、指に差して、それに長い爪が付いていて便の有る所でヒモを引くと先端の爪が90度曲って熊手のように掻き出すなんて物を作ったら売れるんじゃないかしら?」
父「今後の高齢化社会にはいいかもな、特許を取ろうか!? 俺は思うんだが、孫の手って、本当はもう少し小さなもので、本当に掻き出していたんじゃないかと思うんだ」
娘「まさか!? でも、あるかも……発掘された小さな孫の手ってあるの?」
父「いや、知らない。たぶん、あっても、孫の手としてあつかわれるだろう……」
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