第35話「ジロウさん」
娘「お尻の手術をしたリフトの人は、その後どうなったの?」
父「あ〜っ、あいつか……手術は成功したらしい。3週間くらい入院してたかな、手術の後が痛かったらしいぞ」
娘「手術だから切ったんでしょう、あそこを切られたら痛いと思うわ、辛い物を食べた後でも痛いもんね」
父「でも、
娘「お父さんも
父「ジロウさんか、懐かしいな……♪なんもかも忘れて、さわごじゃないか!? ♪ヨイヤサーのヨイヤサー って知ってるか?」
娘「知らない。なに、それ?」
父「いゃ、なんでもない。忘れてくれ。俺の膿は表面が化膿しただけだと思う。本当のジロウさんは直腸からお尻の表面に穴が空いて、便や膿が漏れてくるようだ」
娘「穴から漏れる!? それは痛くても手術しないとだめだね……」
父「すごいかっこうで手術したらしいよ」
娘「場所が場所だからね……女の人は病院に行きたがらないだろうね」
父「でも、病院に行かないでガンになったら大変だぞ」
娘「そうね、でも、手術したら治るのかしら?」
父「どうなんだろうね、お尻を締め付ける筋肉があるだろう? ギューッと締める筋肉」
娘「うん、括約筋ね」
父「そう、大活躍だね。あの筋肉は、輪ゴムのように円い筋肉なんだけど、症状が悪化していて手術で筋肉を切ってしまうと大変な事になるらしい」
娘「締め付けられなくなるの?」
父「そう、漏れるようになるらしい」
娘「でも、また手術して筋肉をつなげればいいんじゃない?」
父「それが、あの筋肉は一回切ってしまうとつなげることができないらしいんだ。アキレス腱なんかは、切れても手術でつなげられるらしいけどね」
娘「ええ〜〜っ、それじゃ〜筋肉を切ったら一生漏らして生きるの!?」
父「そうみたいだね。一昔前に手術した人は、手術は成功しても、当時の手術方法が間違えていたらしくて手術後、何年かすると肛門から腸や粘膜が出るようになって、出血なんかで一生悩んだそうだ」
娘「それだったら手術したくないな……でも、そうしたらガンか……導引で治らないの?」
父「ジロウさんになると導引では無理だろうな、もっと初期じゃないと」
娘「ジロウさんも冷やしてなるのかな?」
父「冷えもあると思うけど、あれは下痢が原因らしいからね。酒呑みがなりやすいみたいだよ、酒には下剤の効果があるからね」
娘「お酒か、わが家はみんなあまり呑まないもんね。なんで?」
父「体質かな? 少しなら呑めるけどいっぱいは無理だ。酒は適量なら“百薬の長”だが、呑みすぎたら毒になる」
娘「急性アルコール中毒なんてのもあるもんね」
父「酒を呑み始めた人は、自分の適量がわからなくて倒れてしまうね。昔、飲み会で女の子が酔っぱらいていたんだ。帰る時間なので腰に手をかけて立ち上がるのを手伝うと、タコみたいにふにゃふにゃで床に落ちて、服が脱げてしまいブラジャーが丸出しになったことがあった。あれは、導引の脱力の技の極みだな。酒も少しなら下剤の効果があっていいけど、呑みすぎたら下痢になるみたいだね」
娘「リフトの人もお酒を呑むの?」
父「あいつは個人的に呑んだりはしなかったから、よくわからないけど、お土産に有名な酒の小瓶をもらった事があったな……」
娘「それじゃ〜やっぱり呑むんじゃないの?」
父「そうだな……そいつ、手術をして半年くらいしたら会社を辞めちゃったんだ」
娘「どうして、お尻が痛かったから?」
父「原因は聞いてないけど、オシメをして仕事してたらしいんだ、体液とか漏れるって言ってた」
娘「やっぱり痛かったんじゃないの?」
父「そうかもしれなが、人事から新人の仕事の教え方でキツくいわれたのが引っかかっていたみたいで、よく新人のやり方は正しくないって言ってたんだ」
娘「その新人のリフトの人は下手なの?」
父「下手ではないよ。長くリフトに乗っている人だから、ただ耳はよく聞こえないから補聴器はつけているが、会話はできるんだ。怒鳴らなくても聞こえるんだけどな……」
娘「それじゃ〜 自分のポジションが取られると思って難癖をつけたのかも?」
父「それも、あるかもしれないけど、自分が教わったやり方が正しと思っていたようで、やり方が違うと激しく怒鳴っていたようなんだ」
娘「それは、やり方が違うとダメな仕事だったの?」
父「いや、どっちのやり方でもかまわないんだ。現に今は耳の良く聞こえない人がリフトをやっているんだけど別に問題は起きていない」
娘「それじゃ、そのジロウさんの方が間違えてたの?」
父「そうとも言えないけど……職場で正しい事って実は、皆んなで『こうしよう』って決めてきた事で、絶対に正しいって事ではないだろ?」
娘「ちょっと難しいな……」
父「お尻でもジロウさんは、昔は括約筋を切っちゃうのが正しいやり方だった時期があるんだけど、今は、そのやり方はまずいというように、時代によっても正しい事は変わると思うよ」
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