第5話「エアーバッグ」
父「俺の工程の前の工程をやっていたインドネシア人の人は車のハンドルの中に入れるエアーバッグを座席に置いていたんだ」
娘「エアーバッグを取り付けるんじゃなくて?」
父「そう、置くだけ。取り付けは、もっと後の工程でやるみたい」
娘「その人って作業が遅くて、お父さんの持ち場にも入って来るって言ってた人?」
父「そう、そのインドネシアの人」
娘「エアーバッグを置くだけなら、そんなに遅れないような気がするけど……」
父「それが、車は全部同じじゃなくて3種類あったんだ。そして、輸出先がいっぱいあるんだ」
娘「どういうこと?」
父「エアーバッグって膨らむじゃない、ぶつかった時に」
娘「うん、そうだね。あたしは、まだぶつけたこと無いから出してないけど」
父「それでさ、国によってエアーバッグの膨らむ基準が違うんだ」
娘「そうなの!? 全部一緒だと思っていた」
父「それが、違うらしいんだ」
娘「なんで?」
父「詳しい事はしらないけど、体格とか違うし、けっこうスピード出して走る国もあるんじゃないかな? 直線がずっと続く大陸や平原とかも多いぞ」
娘「……それは、あるかもね。外国旅行した友達も、まっ平らな道で山のない平原だって言ってた」
父「まっ平らな平原なら先がよく見えるから100キロぐらい出しても平気じゃないか? そんな国ではエアーバッグも膨らみ方が弱いと怪我しちゃうのかもね?」
娘「たぶん、そうだよ」
父「外国ってさ、真っ平らな土地がけっこう多いんだよね。それで用を足そうとしても隠れる木や岩とかが無いから、見られても、そんなに恥ずかしいっていう感覚はないらしいんだ」
娘「あたしの友達で中国に旅行に行った人がいるんだけど、トイレの個室の壁が無かったって言ってた」
父「あれだろ、男性の大の方で個室じゃなくて床に穴が空いているだけで、横に何人もならんでするって」
娘「そんな感じかな? 低い壁がある所もあるけど、見ようと思ったら丸見えで恥ずかしかったって言ってた」
父「アメリカとかもトイレのドアって下が空いているじゃない、膝下くらいから空いてるんじゃないかな?」
娘「お父さん、アメリカに行ったことあるの?」
父「アメリカはハワイだけ、新婚旅行で……アメリカのドラマを見てるとけっこうトイレのシーンがあるんだ」
娘「ああっ、ドラマね、そういえば日本のと違うね。部屋の中にトイレが椅子みたいにあったりもするけど本当なのかな?」
父「さぁ、どうなんだろう? でも、日本人みたいには、恥ずかしがらないみたいだね」
娘「そういえば古代ローマのお風呂の映画で、椅子に座っているように普通に話しながら用を足すシーンがあった! 海綿って海藻を水で濡らしてお尻を拭いていたわ」
父「それ、漫画で読んだな、実際に遺跡で出土してるらしいね。海綿は皆んなで使いまわしていたようだ」
娘「女の人も同じなのかな?」
父「たぶん、同じじゃないかな、そう、それでインドネシアの人だよ、言いたかったのはエアーバッグが違ってたってことなんだ」
娘「あっ、エアーバッグに戻ったね。なに、違ってたって?」
父「車を輸出するだろ。そして輸出先の国で検査したらエアーバッグの膨らみ方が基準より低くて、これでは国の検査を通らないって会社にクレームが来たんだ」
娘「それは大変ね、お父さんが悪かったの?」
父「俺じゃないよ。俺の前の工程のインドネシアの人! エアーバッグって10種類くらい置いてあったんだけど、よく分かってなかったみたいだね」
娘「それ、けっこう大変じゃない?」
父「そう、大問題になって、インドネシアの人は、かなり怒られたみたい」
娘「それは、しかたないかな……」
父「言葉がわからないから、仕事の説明を聞いてもわからなかったのかもね」
娘「全然わからないの?」
父「いゃ、少しだけなら日本語ができるんだ。仕事の細かい説明まではわからないだろうけどね……」
娘「それで、その間違えたエアーバッグはどうなったの?」
父「あぁ、それね。日本人の社員の人が外国まで行って取り替えたらしいけど、調べたら他にもあったらしいよ」
娘「それは大変だ、お父さんも何か間違えてたんじゃないの?」
父「俺のは単純な力仕事だったから大丈夫だよ。たぶんな……」
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