第5話 魔法の言葉

打たれた薬のせいか、痺れで、まだ立ち上げることもできない。

懸命に女の子に話かける。

しかし声がだせない。

俺が世間から抹消されるのは、理解できる。今や、企業や政府の邪魔者だ。


でもなぜ女の子まで。


親に保護されたのではなかったのか?

整理しようとするが考えがまとまらない。


街で女の子と会った時のことを思い出していた。

彼女の口元が頭の中でフラッシュバックする。別の言語で「助けて」と。

他の惑星語を勉強してきたのにも関わらず、とっさにあの時理解できなかったことに酷く罪悪感を覚えた。

しかし、彼女に直接何が起きたのか聞くまで、わからない。彼女はぐったりしている。


他に人はいないようだ。



・・・ガンっ!!!

また積み荷が放り込まれた。背筋が凍った。シドニーだった。


(シドニー!!!!)


身体を引きずりながら彼女に近づく。

シドニーも同じく衰弱している。だが生きている、大丈夫。



状況から察するにロケットはまだ打ち上げられてないらしい。


ただこのままだと、宇宙のごみとして燃え尽きてしまう。

(頼む、おれ。動いてくれ!)


俺は全身が痺れながらも

唇を血がでるほど噛み、無理矢理、身体を動かす。

なんとか操縦席にたどり着く。誰かに知らせないと。

もうロケットは離陸する直前だった。しかし、俺の直感がこう言う。


(ここでこのまま出て行っても、どうせ殺される。みんな)


俺はロケットの中で、他の手段を考える。

とにかくこのロケットが燃え尽きる前に、どの惑星でもいい、不時着したかった。

二人だけでも助けたい。

おれの責任だ。おれが巻き込んだ。


ネットベースに繋なぎ、船内マニュアルをダウンロードすることも、理解できない。

必死に、必死に読み直す。焦燥感と死の恐怖で頭がまわらない。諦めかけていた。

(クッソ)



「・・・大丈夫よ」弱い声であったが、すごく温かく安心する彼女の声が聞こえた。

「シドニー!!良かった。ケガはないかい!?待っていて今助けるから」俺は微笑む。


彼女が自分の指輪を外して、

「キリル、あなたにつけていて欲しいの」

「ほんとうは、私はあなたに惹かれていたの。でも会話が苦手でね。素っ気ない態度でごめんなさい」


俺は彼女の髪を撫で、

「あとで、ゆっくり話したい」そっと彼女の指輪をつけなおす。

彼女は静かにうなずく。


(絶対に助ける)


俺は冷静になることができた。

このゴミ処理ロケットは、目的地に着くと消滅するよう設計されている。

軌道さえ変えられれば、作動しない。また見た目は一般輸送船と変わらない。

企業のロケットを撃墜する惑星はない。


(大丈夫)


レバーを握り、ロケットの発射を待つ。

激しい揺れとともに、打ち上げられていく。

軌道に乗り始めた時、俺はレバーを強く傾けた。


船内に警告アラートが鳴り響く。

(大丈夫)

俺は確信していた。


急な方向転換により重力で気を失いそうになる。

目は閉じない。レバーから手を離さなかった。



ロケットは小さな惑星へと方角を変えた。


二人の元に戻り、ぐったりと座る。

なぜだろう。

心は解放され、安心感があるこの感覚は。

こんなにも滅茶苦茶な状況なのに。

俺は安堵した表情で心の中で

この後どうなるか、なんてわからない。

でも

・・・そう。



・・・そう思いたかった。


その惑星でセロトニンカプセルの真実を知るまでは。


(続)

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