第4話 忘れていた感覚
(なぜ君は来てくれたの?なんで連絡してくれなかったの?どうして・・)
聞きたいことが山ほどあった。俺はすべてを一つの言葉にまとめる。
「
また会えて、嬉しいよ」彼女を見つめる。
彼女はそっと隣に座る。なにも返事をせずに。でも、、、
・・・それだけで充分だった。
「あなたと同じものを頂くわ」彼女はそう呟くと、髪をかき上げ、遠くをみる。
俺は、カウンターの席の下でこぶしを握りしめて
「
俺は会社を辞めようと思うんだ。セロトニンカプセルとは断絶する」
彼女は黙っているが俺は続ける。
「忘れちゃいけない感情があった。無くしちゃいけないことがいっぱいあった。嫌な事も全部含めて、本当の自分があった」
俺は心に思っていることを伝えたかった。
(君が俺に人として生きている証を教えてくれたことを)
「きみがいなければ気付かなかった・・・ありがとう」
感謝の気持ちや嬉しさが混在した感情で目頭が熱くなり下を向く。
彼女がそっと俺の頬に手をあて、涙を拭いてくれた。
「もう大丈夫よ」そう一言。
それからの話は、笑いが絶えなかった。好きなお酒の話、音楽の話。この一週間がどれ程長く感じたか。
そんな、くだらない会話が最高に幸せだった。いつぶりだろうこんなに笑ったのは。
「素敵な指輪だね」彼女の手をそっと触る。
「お母さんがくれた宝物なの。いつも着けているの。傍にいてくれる気がして」
「・・・ああ、わかるよ」
彼女は続けてこう話した。
「私がこの惑星の人間じゃないって言ったら、どうする?」真剣な目でこちらを見る。
「そんなこと関係ないよ」直ぐに俺は答えた。
お互いふと見つめ合ったが。目線を外し、ぎこちなく、二人ともお酒を飲み干す。
「また明日、この時間に君に会えるかい?」
「ネットベース間では連絡はとらないわよ?」彼女は笑う。
「そのつもりだ」
俺はそう答え、立ち上がる彼女にコートを着せる。
「じゃあねキリル」
「ああ、またシドニー」
俺は会社を辞めた。
それからは、会社に取らせた自分のデータを回収し、セロトニンカプセルが如何に依存性の高く、危険なものであるか訴え、スピーチをしていた。彼女はそれを隣でみている。
この運動には徐々に賛同者が集まるようになっていた。
最初から皆、声をあげたかったが言えなかったんだ。ただ怖かっただけなんだと思った。
危険なのは承知していた。でも、ただ真っ直ぐ生きたかった。
自分の感情に素直になりたかった。
父からの身を案じるメッセージは無視していた。
夜、いつものようにスピーチのための原稿を書いていた。
その時、また手に持ったグラスを落としてしまった。
・・・今思えばこの症状に早く気付いていれば良かった・・・
「ソルミア様、失礼致します」後ろから近づいてくる。今度捨てよう。
「あとにしてくれ、いまは取り込み中なんだ」俺は原稿に没頭していた。
・・・プッッス・・・何かが首刺さった。
急に全身が染みる感覚になり、意識を失いかけた。
力を振り絞り、後ろを振り返る。
「すべてお前が悪い」ガラクタから発せられた声は父のものだった。
ずっと監視されていたことにも気付かず、俺は倒れ込んだ。
頭がグラグラする。身体は思いっきり振られ、ひどい夢から目を覚ます。
目に映ったのは、ゴミの山に埋もれていた自分の手足。壁にはSmileFuture社のロゴが書かれていた。
俺はゴミ処理ロケットに乗せられていた。あの迷子の女の子も一緒に。
(続)
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