第3話 感情の雨
シドニーのことを考えていた。もうあれから4日過ぎた。彼女に連絡しても返ってこない。
一週間後には連絡を返してくれるのだろうか。
俺は生まれた時から何でも手に入った。子供の頃にはすでに頭にマイクロチップをいれており、隣の惑星の人とも交流をしていた。
ただいつも心はなにか穴が空いていた。
それを埋めてくれたのがセロトニンカプセルだ。なにかも前向きに考えることができ、そのおかげで重圧を乗り越えて今の座に上りつめた。
父の支援もあったことは否めないが。
この惑星の人口の87%はマイクロチップを入れている。決して安価なものではないが普及している。俺が社でも入社員には無償で提供している。セロトニンカプセルと同じく。
「お母さんに会ってくる」俺はそう一言メモを残して、雨の中、雨具も無しに出ていった。
無性に動きたかった。外の空気を感じたかった。そして安心して、話せるお母さんに会いたくてしょうがなかった。
「雨すごいね、今日。お母さんは大丈夫?みてみて、お母さんが好きなラベンダー持ってきたよ」俺はそっとお母さんの元に置く。
「最近気になる女性がいるんだ。でもうまく話せなくて・・」俺は自然と涙目になっていた。
「お母さんはよく言っていたね、将来俺はいい男になるって。今はどうかな・・・」
「・・・・また来るね」俺はこぼれる涙を雨で消しながら、後にしていった。
自宅に戻りシャワーを浴びる。温かい水に打付けられ、何もせずぼーっとしていた。
カプセルをやめてから、急に感情的になったり、絶望感を抱いたりするようになっていた。
食欲もでない。報告会も度々休むようになっていた。
深夜、グラスを片手に、静まり返った町をみながら、トニックウォーターを飲んでいた。
手が滑ったのかグラスを落としてしまった。震え?なのか?ただの疲れだ。
眠れないのは分かっているが、ベッドに横になる。俺のその目線はカプセルの場所へ釘付けになっていた。
だがあの時の彼女の悲しい視線が脳裏によぎる。俺は枕に顔をうずめた。
7日目を迎えた。
朝、父から何通もの連絡がきていたことにやっと気づく。返事はいつもしない。
彼女からの連絡もない。意気消沈した。
(だが同時にボディーメンテナンスがどれほど大事か理解できた。今後の会社を運営するヒントにもなるだろう)自分に無理やり言い聞かせて説得する。
冷え切った卵とベーコンはまだ片付けていない。
報告会に出席し、今度自分のデータを調査するようにと放ちスイッチを切る。
矛盾しているが、同時にカプセルに対しての違和感を覚えていた。感情が目まぐるしく動き、苦しかったが生きている心地もした。
悲しさや辛いことがあるからこそ、人は幸福を享受できる。
カプセルを飲まなかったからこそ感じられた感覚だ。
(彼女には感謝しないと)
「ソルミア様、カプセルをお持ちしました。7日目です」
「・・・用ができた。外出する。」俺の行く場所は決まっていた。
あの時彼女にあった場所、同じカウンター席でトニックウォーターを頼む。
まだ14時。
・・飲み過ぎたせいか、寝てしまったようだ。ぼんやりと目を開けると人の手が見えた。
その左中指にはめている指輪は、あの青い綺麗な指輪だった。
「飲み過ぎじゃありません?」
俺は顔を上げると、静かに笑みを浮かべた。
(続)
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