16.フラグの予感と生姜焼きモドキ
「おっと失礼。わたしはスキールニール。この街で細々と暮らしてる、しがない老人だよ」
「あ、こんにちは。時の旅人のもふたです」
「この街へは初めて?」
「はい。せっかくなので散策しようかと」
「おや。そうですか。西側へはもう?」
「はい、先程そこへ行ってきました」
「では墓地へも?」
「行きました。」
「あそこに大きな木があるじゃろ。その木には光の精霊が宿っていて、その光の精霊様が若い英雄に力を授けたという話があるんじゃよ」
「へぇ、そんなお話が。初めて知りました」
「ふぉっふぉ。この石碑に興味を持ってくれる人は少なくてな。こんな老いぼれの話を聞いてくれる若者は少ないんじゃよ。お前さん、精霊に好かれとるんじゃないか?なら、もう一度木の下へ行ってみるといい。光の精霊様が現れたりするかもしれんの。」
なんかフラグを建てた気がする。いつか余裕があったらまた墓地の木へ行ってみよう。
スキールニールさんと別れ、南、北と気ままに散策をする。
特に気になるところはない、普通の街並みだった。せっかく来たので色々と買い物しながら噴水へ戻り、始まりの街へ。
先程のフィールドボスへ行く道で気付いたが、俺がログインしている間にも2匹のどっちかを自由に狩りさせてもいいかもしれない。
1匹いれば俺の護衛は大丈夫だろう。
ユキとクロを迎え、帰宅する。
「フェル。クク。聞いてくれ。俺がこの世界にいる間、フェルとククはずっと俺のそばにいるだろ?暇なこともあるだろう。どちらかが交代で狩りに行ってきていいぞ。だが、狩りをするのに条件がある。クロも、冒険者になるだろう、聞いてくれ。」
「わかった」
「フェル、クク、クロが狩りをするのはお金稼ぎだが、生きるためのお金稼ぎではなく、生活を楽にするためのお金稼ぎだ。他の冒険者には生きるためにお金稼ぎをしている。わかるな?」
「うん」
「だから、基本的に他の人が戦闘している魔物を勝手に狩ることはその人から獲物を奪うことになる。しかし勝てそうにない獲物に遭遇し、逃げることも出来ずやむなく戦闘をしている、ということもあるかもしれない。助けを求めてくれば分かりやすいが、そうじゃなかった場合はどうする?そのことについて自分でしっかり考えて、狩りをして欲しい。」
保護者である以上、常識を教えなければならないが、自分の考えを押し付ける訳にもいかない。しっかりと考えて行動して欲しい。
「難しい。でもわかった、考える。」
「わふ」
「ホー。」
「よしよし。賢い子だ」
頭を撫でる。
「よし。じゃあご飯作るな。ユキ、手伝って」
「はーい!」
セコンドで売っていた豚肉。どうやらセコンドの近くには豚系の魔物がいるみたいだな。
これをどうするかな…
まぁ、無難に生姜焼きモドキでいいか。生姜に似た食材も売ってたし、それをすりおろし、醤油、砂糖をまぜておく。
豚肉を切り、先程のタレに漬け込む。
「『浸透』」
料理スキルで、漬ける時間を短縮させる技。
「じゃあこの肉をフライパンで焼いといてくれる?」
「はーい」
その間にキャベツっぽい野菜を千切りに。やっぱり生姜焼きにはキャベツだよな。
「できた!」
「うん、大丈夫そうだね。これで完成っと」
米が欲しいけど仕方ない。パンと味噌汁を用意する。
「「「いただきます」」」
「わふ」
「ホー」
薄めに切った豚肉で噛み切りやすく、あまじょっぱいタレが甘すぎずしょっぱすぎず、丁度いい。
キャベツを巻いて食べると、シャキシャキの食感も楽しめる。
だが俺は、タレを吸って柔らかくなったキャベツも好きだ。シャキシャキじゃなくなって柔らかくなっているが、噛めば噛むほどタレが口に広がり、幸せになれる。
「「「ごちそうさまでした。」」」
「わふ♪」
「ホー」
美味しい料理を食べて満足した2人を寝かしつけると俺はログアウトした。
………………………
○クロ視点
アニキは難しいことを言ってた。
スラムにいた時は、食べることが大変だったから、人の獲物を取っちゃいけないのは分かる。魔物だからと言ってなんでも倒していいわけじゃない。けど、逃げられなくて戦っていることもあるみたい。手を出せばいいのか、手を出さなければいいのか難しい。
俺はアニキにたくさんお世話になってるから、役に立ちたくて冒険者になるって決めた。だからそのせいでアニキに迷惑かけたくない。
アニキは優しくて、たくさん気にかけてくれる。色々教えてくれるし、恩人だ。
隣で寝ているユキを見る。
あどけない表情で寝ている彼女を見て頬が緩むのが分かる。
「いつか、アニキにも俺達のこと言わなくちゃいけないよな。」
アニキに嫌われたくない。でもずっと隠してる訳にもいかない。
いつか、話さないと、な…
瞼が重くなっていき、意識が遠くなっていった。
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