第67話 愚者の再会

 クリスタ姉がドッペルゲンガーを殴り飛ばした様子を見て冷や汗をたらす僕。

 何だよあれ。

 

 首がグネッてなって吹っ飛んでいったよ。

 ドッコオオオオオンってすごい音だったんですけど。


 相変わらずものすごい身体強化なんだけど、よっぽど怒っていたんだろうねぇ。

 今までに見たことがないくらいの威力だったし。

 容赦なかったし。



 はぁ~っ、普段温厚な人を怒らすとこうなるって典型的な例だよね。

 こわいこわい。



        ★★


 とりあえず、ここで待っていればいいみたいなんで、部屋の外でウロウロしていた人狼ワーウルフを捕まえて色々とお話を聞いたり、偽聖者の犠牲になった人を蘇生させていたりしたら、結構な時間がたっていたようだ。


「おい、アル~。他人事のように現実逃避するなよな」


 僕がボンヤリと外を眺めていたら、エギルからそう苦情が上がる。

 

 蘇生した人の説明や、捕えた人狼ワーウルフたちをひとまとめにしておくことを全て任せたから仕方ない。

 僕にはやらなければならないことが、あるんだよ。

 だから、仕方ない。


「蘇生するのにたいして疲れないってのは分かってるんだからな」

「ギクッ」

「自分でギクッって言うんじゃねえよ」


 だって、いちいち泣かれたり、感謝の言葉を聞いたりするのは面倒じゃない?


「エギル君、アルバート様は私たちに負い目を感じさせないように、あえて平気そうなフリをしてるんです。私の目は誤魔化せませんよ。とても崇高なお方なんです」


 片っ端から蘇生しまくっていたら、何故か過剰に懐いてしまったウノさんが力強く断定するけど、はい、貴方の目は節穴です。


「ウノのおっちゃんがやたらと宣伝するから、ミニ聖者みたいな感じて崇められてるぞ……」

「マジ!?」

「マジ…………」

「何とかしてよ」

「知るかよ。せいぜい泣いて崇められればいいさ」


 ううううう……、弟子が厳しい。


 髪をかき上げただけで、歓声が上がるという居心地の悪い空間で待つことしばし。


「アル君、帰ってきたよ!」


 鈴の鳴るような声が、ドッペルゲンガーの屋敷に届く。

 声の方向に視線を向ければ、返り血でローブを真っ赤に染めたクリスタ姉に肩を担がれて見知った男がやって来た。


 僕の知る次兄よりはだいぶ痩せこけて、ボロボロの姿だけど、その瞳に湛えられた慈愛と、人を安心させる優しい笑顔は間違いなく【聖者】トリスタンその人だ。


 ことの経緯をエギルから聞いていた人々からは、次兄の帰還に大歓声が上がる。

 うん、もてはやされていたのはやっぱり間違いだったな。

 ホントの人望ってのは、次兄の姿を見た人々の反応ですぐに分かる。


「クククク、人気を取られちまったな……痛ッ!」


 僕がちょっと、ほんのちょっとだけショックを受けていたら、エギルがドヤ顔でからかって来たので、その頭にひとつ拳骨を落としておく。


 僕はひとつため息をつくと、改めて久しぶりに再会した次兄と視線を交える。


「痩せたな……トリスタン義兄さん」

「フッ……だが、まだ生きている」


 僕と次兄トリスタンは、そう言って笑い合う。

 そんなに言葉はいらない。

 これまでに培ってきた絆が、相手が何を思っているか分かるから。


 僕の見立てでは、体力は少し落ちているようだけど、生命に別状はない感じかな。


 数ヶ月飲まず食わずだったとは聞いているけど、次兄の精密な聖気のコントロールがあればこれくらいは余裕か。

 現に、その身体からは恐ろしいくらい気力が溢れだしている。


 ってか、すっごく怒ってるんですけど。


 あの人をも殺せないような笑顔の下では、ゴゴゴゴゴってマグマのような怒りが沸々としている。

 僕には分かる。

 昔、義弟とイタズラをして次兄に怒られたときと同じだ。


 多分、このあたりの魔王軍は全滅するだろうな。

 それくらいキレている。


 普段温厚な人を怒らすとこうなるって典型的な例だよね(二回目)。

 そう言えば、さすがに金をたかろうと次兄を探してたってバレたらヤバいよな……。


 うん、それは黙っとこう。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


『自己評価の低い最強』祭り終了。


まだハート様……いや、コシチェイが出てきてませんので、そのあたりを書いてこの章は終わりになる予定です。




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