第64話 偽物の目的

 俺様の名はドッペルゲンガーの【ラミバ】


 魔王軍四天王のひとり【心臓ハート】の称号を持つ【不死者コシチェイ】様配下の上位魔人だ。


 目にした者ならば、どんな者にも変化することが出来るドッペルゲンガーである俺様は、そこらの蛮族ども他の魔王軍兵士とは異なり、この優れた頭脳でのし上がって来た男だ。


 バカな奴らは、何も考えずに感情のおもむくままに暴れるだけ。


 だが、俺様は違うぞ。

 相手の隙をつき、弱みを利用して確実に敵を屠ってここまでやってきたのだ。


 中にはこの俺様をつかまえて腰抜けと陰口を叩く者もいるが、それは考え方の違いだ。

 力頼みで真っ正面から敵に挑んで負けるのと、卑怯と罵られながらも神算鬼謀を駆使して敵に勝つのではどちらが優秀か?


 もちろん後者、つまりは俺様のことだ!! 

 


 そして俺は今、あの【不死者コシチェイ】様から直々に指名を受けて、とある実験に勤しんでいる。


 それが【肉体強化実験】


 肉体に様々な手を加えることで、更なる力を得ようとする実験だ。

 これが実現すれば【超魔人ハイパーデモニウム】が誕生するのだ。

 それはまさに、この侵略戦争を決定づける、強力な一手となり得るのだ。


 俺は素晴らしき未来を想像し、高らかに笑い声を上げる。

 誰もが俺様を称賛し、羡む姿を想像するだけでも笑いが止まらない。

 何故ならば、きっとこの実験も成功するはずだからだ。


 それなれば、あとはせいぜい有象無象の凡人と俺様との格の違いを見せつけてやるだけだ!!



「何しろ俺様は天才だ!!」


         ★★


 俺様の実験は極めて順調であるが、ここに来て足踏みが続いていた。

 その理由は、人体実験が出来ないということだった。

 俺様が立てた理論を実践するためにも人体実験が必要なのだが、失敗して同胞の生命が失われる可能性があるとして、上層部から待ったがかかってしまったのだ。


 この俺様の貴重で崇高なる研究のためならば、多少の犠牲はやむを得ないではないか。

 それを何も分からぬ文官どもがグチグチグチグチと……。


 この俺様の邪魔をする者は皆、俺様が栄達するのを妬んでいるのだ。

 そうだ、それに違いない!


「凡人どもよ、俺様の実験に怯えるがいい」


        ★★


 ああっ、ついについに時運は俺様に味方した!

不死者コシチェイ】様が率いる一軍が、敵の国を攻め滅ぼして【アウルム】とかいう都市を支配下に置いたのだ。

 ついに、ニンゲンとか言う木人形モルモットが手に入るのだ。

 俺様は歓喜にうち震えた。


 これで、俺様の実験がまたひとつ先へと進む。

 

「見ているがいい凡人どもよ。この俺様の素晴らしき成果を!」


        ★★


 まずい……、まずいまずいまずい……。

 まずいまずいまずいまずいまずいまずい。


 俺様の理論は完璧だ。

 …………完璧なはずだ。


 だが、いざ実験してみると予想以上に木人形ニンゲンが脆すぎる。

 ちょっと力を込めただけで、風船のようにパンと破裂してしまうのだ。


 これは木人形ニンゲンが脆弱すぎるだけで、魔族ならば……。

 

 失敗を繰り返し、山のように木人形ニンゲンを積み重ねていくうちに、周りの手下ども視線が冷たくなってくる。


「もっと強い木人形モルモットを連れてこい !」


 街の者を殺し尽くした俺様が人狼ワーウルフに命じるも、がさつなあ奴らはニンゲンを生かして連れて来ることが不得手であった。

 瀕死の実験体を連れてきてどうしろと言うのだ!


 無能ッ!無能ッ!無能ッ!


 どうして俺様の足を引っ張るのだ!


「俺様には強い男だ必要だ!あらゆる実験に耐えうる木人形モルモットがな !」


       ★★


 はーっ、はっはっはっは!!


 魔族の神は、俺様を見捨てなかった!!


 ついに、俺様に転機が訪れたのだ!


 コトの発端は、ニンゲンの国で【聖者】とか呼ばれている男が街の奪還にやってきたことだった。

 ニンゲンとは思えぬほどに強く、どんなに傷を負わせても瞬時に回復する規格外の男。

 下僕の人狼ワーウルフたちが束になってかかっても、その歩みを止めることすら出来なかった。


 そして男は、【不死者コシチェイ】様とも互角の戦いを繰り広げる。

 その称号のとおり、いかなる攻撃を受けても再生する【不死者コシチェイ】様と同様に、あらゆる傷を治癒魔術で回復する男。

 無限再生と無限治癒の戦いは、いつまでも終わりの見えない死闘であった。


 仮に、【不死者コシチェイ】様が男に不覚をとるようなことがあれば、残った我々は一方的に蹂躙されてしまうだろう。

 男の実力はそれほどのものであった。

 

 さしもの俺様も、このときばかりは死を覚悟したものだ。


 だが!だが!だが!


 そこは天才の俺様だ。

 俺様は【聖者】が引き連れていた女を支配することに成功したのだ。


 確かニンゲンどもからは【癒聖】とか呼ばれていた女だ。

 俺がこの変身能力を生かして、逃げ遅れて怪我をした子どものフリをしていたら、案の定、助けますとフラフラと近づいて来たのだった。


 イイイイイヤッハッハッハーーーー!!!


 ざまぁ!


 俺様が隠し持っていた【隷属の首輪】を取り付けたときのあの女の驚いた顔と言ったら

今思い出しても腹がよじれる思いだ。


 【隷属の首輪】とは、魔国にある迷宮ラビリンスから発掘された【迷宮遺物アーティファクト】と呼ばれる神器のひとつで、着けられた者の自由意思を奪い反抗を抑圧する効果を持ち、死ぬまで取り外すことは出来ない。

 そして仮に、首輪を着けた者が主の命令に反しようとすれば、その魂を粉々に打ち砕く。

 魂が無ければ蘇生も不可能。

 しかも、主はこの俺様に設定してある。

 

 いわば、俺様はこの女を生涯奴隷にしたということだ。


 イヒャヒャヒャヒャ!!


 笑いが止まらんなぁ!

 そして、女を隷属化した結果、【聖者】も我らが軍門に下ることとなった。

 なんたる幸運か!


「今は言うことを聞こう。だが、彼女に傷ひとつでもつけたときは覚悟しろ」


 そう言って【不死者コシチェイ】様を睨み付けた【聖者】の瞳は、あまりにも殺気に溢れていてビビっ……いや、何でもない。

 残念なことに女をいたぶることは出来ないが、それも【聖者】が死ぬまでの我慢。

 アイツは今、ニンゲンどもが【終身刑務所ビレニープリズン】と呼ぶ監獄に押し込まれている。

 飲まず食わずで早3ヶ月。

 そろそろ衰弱することだろう。


 そうなればあの女は……。


 木人形モルモットにしてもいいし、凌辱するのもありだな。

 そんなことを思いつつ、【聖者】を抑え込んだ功績で【不死者コシチェイ】様にこの街を支配することを許された俺様は、研究を完成させるために人体実験に励むことにする。


 俺様は今、【聖者】の姿に変化して過ごしていた。

 この姿をして隷属した女を隣に置いておくだけで、ニンゲンどもが大挙してやって来ることに気づいたからだ。


 どうやら、【聖者】がこの街を拠点にして魔王軍と戦っていると勘違いして、かつて【聖者】に助けられたという者が次々と集まって来ているらしい。


 これは、ゴキブリを集める魔道具のようなものだな。

 【聖者】というエサにニンゲンどもが群がっているのだ。

 ゾロゾロゾロゾロと、我々の目を掻い潜っては木人形モルモットがやって来る。

 

 これは、我らが神が俺様の実験を完成させろとのお告げに違いない。


 いよいよ、俺様も大幹部に取り立てられるときがやって来たようだ。


「フッハッハッハ!俺の名は『トリスタン』!【聖者】トリスタンだ!!」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ハートの本当の意味は『聖杯』なんですけど、魔族に聖って……。

そんなわけで意味を『心臓』に変更しました。


難産でした。

もっと簡単にすれば良かった。


あとはスルスルと書けるかと。

次回をお待ち下さい。


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