第63話 悪童の身震


「トリスタン!俺の名を言ってみろ!!」


 そう叫ぶアルの背中を眺めるオレは、明らかに激怒している姿に震えが止まらない。

 普段は、どんなに失礼な態度を取られても、どんなに蔑ろにされても絶対に怒ることがないアルだ。

 むしろ、相手の不躾な言い分にそのとおりだと納得してしまうような男だ。


 そんな自己評価が激低なアルだが、こと他人がぞんざいに扱われたり、尊厳を犯されたりしたときだけは人格が変わったと錯覚するくらい激怒する。


 多少戦い方を学び、精神的にも強くなった今だからこそ、それが何かを理解することが出来てかろうじて耐えられるようになったが、常人ならばその怒りが及ぼす圧力プレッシャーには耐えられるものではなかった。


 それは真っ正面からアルの怒怒りプレッシャーを向けられた聖者様も同様らしく、情けなく尻餅をつくと声を震わせていた。


「いっ!!ひっ!!ひえ、ひえ~~!!なななな…………何を言っている?おおお、お前は誰だ!?」


 あ~っ、これやっちまったなぁ……。

 義兄が義弟アルバートの顔を知らないってあり得ねえよな。

 しかも、アルの圧力プレッシャーに耐えることも出来ずに腰を抜かしている有様だ。

勇者戦術ブレイブ・アルテース・ベルリー】の伝承候補者のひとりがそんなに情けないハズねえだろ。


 聖者様……いや、もう偽聖者って言ってもいいよな。

 アルがポキポキと指を鳴らしながら、ゆっくりと偽聖者に近づいていく。

 アレって怖えんだよな…………。


 偽聖者がジリジリと後退りしながら、助けを求めて大声をあげる。


「くくっ、おのれらなにをしておる!かかれ!かからぬか~~~っ!! 」


 すると、その声を聞いて次々と部屋に上半身を狼の姿に変えた人狼ワーウルフたちが飛び込んでくる。


「殺れ!殺れ!ぶっ殺せええええええ!」


 助けが来て気が大きくなった偽聖者が、アルを指差してわめき散らす。

 だが、いくら人狼ワーウルフの数が多くても、ブチ切れたアルの前には障害にすらならなかった。


「邪魔だ!」


 アルが軽く拳を振り抜けば、殴られた顔がザクロのように破裂する。

 軽やかに蹴りを見舞えば、人狼ワーウルフの胴体がゴッソリと抉られる。


 まさに鎧袖一触。  

 

 アルの身体に人狼ワーウルフの爪すらかすることなく、次々と骸が積み上がる。


「あわわわわわわわわわわわ……」


 ついさっきまでの強気な態度が嘘のように、偽聖者は這々の体で部屋の入口まで向かっていく。

 自分だけは助かろうと逃げるつもりだ。


 だけどアルバートからは逃げられない。


 部屋の入口付近にいた人狼ワーウルフたちを殲滅したアルは、腰が抜けて這っていた偽聖者を背中から踏みつける。


「ぐぴゃっ!」


 カエルでも踏み潰したような悲鳴を上げて偽聖者は床に張り付く。

 そしてそれを見下ろすアルは、一切の慈悲なく告げる。


「早く死に場所を選べ!!きさまは死ぬべき男だ!!」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


怒らせちゃダメな人を怒らせるとこうなるという典型でした。


次回は偽聖者の視点からどうしてこうなったかの説明となります。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る