第59話 悪童の冷汗

 何となくだが、人間と人狼ワーウルフの歩き方の違いに気がついて、それを指摘したところアルに褒められた。 


 よく目を凝らして、そういうものだと思って見れば、人間にしてはやや前のめりに歩いているように感じる。

 こんな僅かな違いなんて、先に言われてなければ絶対に分からないぞ。


「オラッ!早く追いかけねえと見失うだろうが!」


 何やらニヤついて生暖かい目でこちらを眺めているアルにムカついたので、オレは少し強めに意見する。


 決して、恥ずかしくて話を逸らせたかったワケじゃねぇからな。

 

 まあとにかく、こうしてオレたちは、とある建物から出てきた人狼ワーウルフたちを尾行することにしたのだ。


        ★★


 人狼ワーウルフたちは、何か大きなものを大勢で抱えて運んでいた。


 アルは最初からそれが何かを知っていたようだが、オレはに辿り着くまでまったく分からなかった。


 オレが最初に、その臭いに気づいたのは、人狼ワーウルフたちを追いかけて裏門から外に出た瞬間だった。


 鼻をつく生ゴミが腐ったような臭い。


「臭ッ!畜生、なんだよこの臭…………い?」


 匂いの発生源はすぐそこにあった。


 裏門のすぐ目の前に、大きな穴が掘られ、その中にはうず高く積み上げられた無数の死体が放置されていたのだ。

 月明かりで照らされた青白い死体の山々は、身体の一部あるいはそのほとんどが異形化しており、見開かれた双眸は力なく虚空を見つめていた。


 なら、人狼ワーウルフたちが抱えていたも…………。


「ウゲェェェェェェェェェェェェェェ」


 そこに思い至った瞬間、オレは湧き上がる不快感をこらえきれず、胃の中身を大量にぶちまけてしまう。 


「誰だッ!」


 やべえ!

 音を出しちまった……。


 ――――――ゾクリ。


 寒気を感じて頭を上げると、俺の目の前には黒光りする体毛の狼へと姿を変えた人狼ワーウルフの鋭い爪が迫っていた。


 死んだな。


 オレは襲い来る死の恐怖に、思わず両目を閉じ、身体を強張らせる。


 が、いつまでたってもその時はやって来ない。

 オレが恐る恐る目を開くと、そこには先ほどと変わらず、オレに向かって爪を振り下ろそうとしている人狼ワーウルフがいた。


 ――――――首を失った状態で。


 はあっ?


 何があったのか分からないオレは、口を大きく開けて首のない人狼ワーウルフがゆっくりと後ろに倒れていくのを呆然と見つめていた。

 

 すると、オレの方に戻って来たアルが、オレに頭を下げて謝罪する。


「ゴメンね。急にこんな光景を見せられたら、そりゃあ吐くよね」

「って、危ねえッ!」

 

 オレに向き直ったアルの背後に、残りの人狼ワーウルフたちが襲い掛かる。

 瞳をランランと輝かせ、二本足で立つ狼がその爪牙を振り下ろす。


 オレの叫びに反応したアルが振り返った瞬間、飛びかかってきた人狼ワーウルフが四散する。


 ―――――キン。


 鍔鳴りの音がオレの耳に届く。

 まさか、もう斬ったのか?


 ここ最近、何度も何度も命がけの戦いに放り込まれて、相手の剣の軌跡もいくらか見えるようになってきたと思っていたが。

 

 まったく見えなかった。


 これが本気のアルの剣技かよ…………。


 多少の自惚れがあったオレは、垣間見えたその遥かな高みに、鼻っ柱をポッキリと叩き折られた瞬間だった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ちょっと調子に乗ってましたエギルに力の差を見せつけるスタイル。 

しかも、なまくらな剣で高速移動する人狼ワーウルフを切り捨てるほどの技量。


控えめに言って最強です。




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