第57話 愚者の自慢

 城壁都市【アウルム】に潜入を果たした僕とエギルは、物陰に潜みつつ街中の様子を探ることにした。


「なぁ、アル。もしもアイツらがアルの言ったとおりに人狼ワーウルフならよ、オレたちなんて臭いでバレちまうんじゃねえのか?」


 コソコソと裏道を歩いている途中、エギルがそんなことを尋ねてきた。

 おおっ、なかなか良いところに目をつける。


 そうかい、聞きたい?

 聞きたいよね?ね?

 そこまで聞きたいか?


 そっかぁ、じゃあ聞かせてあげようか。


 僕がドヤ顔で説明をしようとすると、何かを感じ取ったのか、エギルはやっぱりいいと話を打ち切る。


 ええ〜、せっかく聞かれたんだからさ。

 ちゃんと最後まで聞いてよ。


「いいって。アルがその顔をしてるときは、無駄に自慢されるからムカつくんだよ」


 そんなこと言うなって。

 たまには自慢させてくれよ〜。


 そこで僕は、エギルに人狼ワーウルフに気づかれない理由をに説明する。


「まず、人の体臭は【消臭デ・オドラント】の魔術で全て消してある。でもそれだけだと、街中の臭いの中に無臭空間が生じて逆に目立つ。だから…………」


 そう言って僕は足元の砂を掬い上げると、エギルに向かってふりかける。


「うぎゃっ、な、何をしやがんだよ!やめろって!」


 ふふふふ。

 これにはちゃんと理由があるのだよ。


 そして、僕は説明を続ける。


「こうして砂を身体にまぶして臭いを同化させたんだよ」

「ペッペッ、畜生ッ!やりやがったなぁ。でもオレはそんなことされてね…………あっ!」

「そうだよ。気づいたかねエギル君?君が壁を登れずに何度も何度も地面に落下していたろう?その時に身体に砂がついて、周りと同化できていたのさ」


 どお?

 この先を見越した二段構えの作戦は?


 壁を無事に登れたならそれでよし。

 登れなくても砂が身体に着くからそれはそれでまたよし。


 僕がドヤ顔でそう説明すると、エギルが冷たい眼差しで僕を見つめてくる。


「最初からそう説明してくれてたら、わざわざ壁を登る必要は無かったんじゃねえのか?」

「えっ?だって、この先も壁を登る必要があるだろうから、練習はしておくべきだし…………」

「いやいやいやいや、どこの忍者だってばよ!いいか?普通に生きていて、壁を登ることなんて一生ねえからな!」

「えええ〜っ!?」


 僕に指先を突きつけて、そう力説するエギル。

 だってこの先、諜報のために邸宅に侵入することだってあるだろうし、工作のために砦に潜入することだってあるよね?


 僕がそう説明したら、エギルにどこか残念な子を見るような目で断言された。


「絶対に!」


 嘘だぁ〜。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


まさか、こんな話で一話が終わるとは……。

この物語に関しては、書き終えてから題名が変わることがしばしばあります。

ホントは『愚者の忿怒』だったんですけどねえ…………。

勝手なキャラたちで困っています。


次は怒ってくれることでしょう。





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