第53話 悪童の質問

 ………………あっ、死んだわ。


 デカブツトロルの背後に隠れていた首なし騎士デュラハンが突然その姿を現すと、一目散にオレに肉薄する。


 その手に持った騎槍ランスが眼前に迫る。

 

 だが、デカブツトロルを斬って体勢が崩れていたオレには防ぐ術がない。


 死を覚悟したオレの顔めがけて繰り出された騎槍ランスが、まるでスローモーションのように見えた。


 こうして、オレは死んだ。


      ★★


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 オレの名はエギル。

 

 目が覚めた瞬間、ときの状況を思い出して悲鳴を上げる。


 顔面を貫いた騎槍ランスの感触と痛みが生々しく思い出された。


「お帰り〜」


 全身から滝のような汗をかいたオレが視線を向けると、そこには瑠璃色の髪を無造作に伸ばした気弱そうな男の姿があった。


「オレ、死んだよな?」


 オレがそう聞くと、男――――アルバートは、ニコニコと笑顔を浮かべながら大きく頷いた。


「うん。だからよ」

「おい、そんなすごいことを簡単に言うなよ……」

「すごいこと……?」


 こうして完璧に蘇生させてもらって、オレはアルの実力の高さを改めて痛感する。


 まぁ、時間差で自分を蘇らせるような技術を持っているような男だから、ただ者ではないことは知っていたんだが。


「死者蘇生なんて神の奇跡の範疇だろ?」

「ん〜、そうなのかな?僕の場合は、すぐにあの人長兄に殺されちゃうから必要で覚えただけだし。ウチの次兄トリスタンなんて、月単位で死んだ人を生き返らせる事ができるからね」  

「はぁ?月単位?」

「うん、蘇生魔術って、死んでから時間が経つと魂と身体の繋がりが弱まっちゃって、上手く癒着しなくなるんだけど、次兄トリスタンは世界のことわりに干渉して強引に生き返らせちゃうからね」

「マジかよ……、バケモノじゃねえか」


 自分がどれだけすごいのかを篤々と説明したら、それ以上に化け物じみた存在の話を聞く。

 世の中って広いなぁ…………。


 オレはアルが自慢げに【聖者】様を説明する姿を見て、どれほど尊敬しているのかを理解した。

 そして、アルにそこまで言わせるとはどんな人物なのか気になったオレは、あれこれと気になったことを尋ねる。


「なぁ、アルは『聖者様が魔王軍に与した』って話をどう思ってるんだ?」


 それは、オレたちに聖者様が【アウルム】という街にいると教えてくれた獣人が話してくれた話だった。


 聖者様は魔王軍の配下となって、自分の名声を頼って集まった人々を捕らえては、アウルムの街で夜な夜な悪魔じみた人体実験を行なっている、と。


 それは魔王軍の流した虚言ブラフか、はたまた聖者様が本当に狂ったのか。

 そんな疑心暗鬼にとらわれるのはオレたち人類だが、アルは事もなげに断言する。


「ああ、それは嘘だよ」

「はぁ?嘘……だと?」


 そうアッサリと言いきったアルの言葉にオレは驚く。

 いやいや、それってどうなの?

 アタマから決めつけるのはおかしくないか?

 そんなことを考えるオレは悪くないはずた。


 だが、アルはそれが当然とばかりに言葉を続ける。


「そもそも、ウチの次兄トリスタンはさ、敵にまで情けをかけるような人だよ。そんな人に人体実験なんて出来るわけないさ」

「だけど……」

「うん、わざわざ滅んだ他国の都市にいるってのは変な話だってのは理解してるよ」 

「だろ?」

「例えば、僕らのようにその名前を聞いて集まって来る者を捕らえて何かをするのかも知れない」

「だよな。もしかするとそれが狙いで情報を流してる可能性も……」

「でも、それならそれで仕方ないよ。仮に僕が騙されるんなら。それは次兄トリスタンに何か理由があることだろうからさ」

「アル…………。ホントに聖者様のこと、信頼してるんだな……」

「それくらい何度も何度もも助けられてきたからねぇ。あっ、もしもヤバいことになりそうだったら、エギルだけはどうにかして逃がすから安心してね」


 オレはアルに出会うまでは、猜疑心にとらわれていて妹以外は全て敵だと思っていた。

 ハリネズミのように針を立てて、周囲の者を寄せ付けなかったオレ。


 妹以外には誰にも心を開かず、誰も信じない日々。


 だからオレは、それほどまでに信頼できる人がいるアルを素直にいいなと思う。


 だからオレは、この件を最後まで見届けたいと考えたんだ。


「バ~カ。オレはアルの弟子みたいなもんだから、最後までついていくぞ」

「エギル……」

「だいたい、オレがいないと危なっかしくて見ちゃいられないからな……」 


 オレがそう伝えると、アルは優しく微笑んでワシャワシャとオレの頭を掻き回す。

 おい、生き返ったばかりだぞオレは。


「僕の弟子なんて思ってくれてたんだ……」

「まぁ、あんな指導方法だけど、確実に強くはなってるからな……」

「そっかぁ、僕って頼りないからさ。ゆくゆくは長兄剣王に預けようと思ってたんだよ……」

「けけけけけけ剣王?」 

「うん、エギルは素質がありそうだから。あの人剣王もきっと喜んで……」

「ちょっ、ちょっと待て!ふざけんなよ!何で生き返ったばかりで死亡宣告されるんだよ!」

「いや、それが最も実力がつくかなって…………」

「オレは教えてくれるのがお前アルだから、こうして剣を学んでるんだよ。今さら別な者に放り投げられてたまるかぁ!」

「エギル……。そこまで僕のことをかってくれてるのかい……?」

「おっ、おう……、と、当然だろ」

  

 アルはオレのその言葉を聞いて、うっすらと目に涙を浮かべている。


 今まで【愚者】だとか【無能】だとか言われていたから、頼られて嬉しいんだろうなとは思う。


 だけどそんなことはどうでもいい。

 それよりも、オレって剣王のところに送られるところだったの!?


 あっぶねえええええええええ!

 

 死亡回避!

 よくやったオレ!

 グッジョブだ!


 咄嗟に断れたオレは、確実に死ぬ未来を逃れたのだった。




 そう言えば、さっきの話を聞いていて気になったことがあったんだった。

 せっかくなので、アルに聞いてみる。


「ちなみにさ。アルは、死後どれくらいまでだったら生き返らせることが出来るんだ?」

「僕かい?」  


 さっきの聖者様を褒める口ぶりだと、アルはせいぜい数日ってとこかなと当たりをつけるオレ。

 

「ん〜、数週間くらいかな?」

「マジかよ…………」




 …………うん、アルも十分にバケモノだったわ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


久しぶりに更新をしたら、新規のフォロワーや評価が思ったよりも多く集まりました。

嬉しくなったので、こちらの更新も頑張ります。



作者は単純なので、褒められばヤル子なんです。


そして、無事に死亡フラグを叩き折れたエギル君。

彼の困難は、どこぞの【愚者】と関係する限り延々と続くのでした。



モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。

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