第52話 愚者の出立

ここまでのあらすじ


 次兄に金をたかるためにはるばるやってきたアルバートとエギル。


 ひょんなことから、治癒まつりを開催したり、迫害されていた獣人たちを救ったり。


 そうこうしているうちに、魔族から隣国の一地方を解放して【軍神】呼ばわりされた我らが主人公。


 後背の守りを弓聖マッチョオネエに任せて今、アルとエギルは旅立つ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「我ら一同、軍神様のご武運をお祈り致します!」


 僕とエギルが次兄【聖者】トリスタンに会うために、旧【カエルム神国】の地方都市【アウルム】へと旅立つ日。

 再生を意味する【アメジスト】と名付けられた街の一角には、獅子族の【ベリル】さんを始めとした獣人のみなさんが一糸乱れぬ姿で整列し、一斉に深々と頭を下げた。


 おおう、頭を下げる角度までもキッチリと合わせていて、なかなかの練度だなぁ。

 ここまでたくさん訓練したんだろうなぁ。


 僕がそんなことを考えてニコニコしていると、隣のエギルが冷たい目で僕を見上げる。


「なぁ、どうせ『みんな動きを合わせてすごいなぁ』とか考えてるんだろ?」

「なっ、なななな……何を言っているのかね?」


 コヤツ、心を読めるのか?


 僕は思わず否定するが、エギルは深くため息をつくと、ひとことひとこと力を込めて説明する。


「いいか?誇り高い獣人がここまで頭を下げるってのは、本来は、絶対に、あり得ないんだ」

「ほうほう……」

「見ろよ、しっかりと自らの頭を相手に下げてるだろ?これは、弱点を曝すって意味で、自らの生殺与奪を相手にすべて預けることを意味すんだよ」

「ほうほう……つまりは?」

「つまり、アルは獣人たちの支配者クラスになったってことだ」

「はぁ?」


 あまりにも突拍子もない言葉に、僕は思わずベリルさんに視線を向けると、彼は恐ろしいくらいに強面な獅子の顔をニヤリと歪ませると、楽しそうに答える。


「いやはや、お弟子殿は聡明てすな。我々の風習まで知っておられるとは」


 弟子……エギルは弟子なのかな? 

 いろいろと教えてはいるけど、こんな僕に弟子入りってのは可愛そうだなぁ。

 そうだ、ある程度剣を使えるようにしたら長兄に預けても……。

 

「おいっ!」


 エギルに脇腹を突かれて我に返る。

 いけないいけない、どうやら考えが迷子になっていたようだ。 


 僕が改めてベリルさんに向き直ると、彼は苦笑いを浮かべて話を続ける。


「そんな訳で、我々は貴方に臣従するつもりです」

「はぁ?」


 どんな理由?


 僕はもの思いにふけって話をよく聞いていなかったことを後悔する。

 だから、愚者だって言われるんだよな。


「あの……」


 慌てて僕が、その理由についてもう一度聞き直そうとすると、そこに盟友の弓聖ヴァリちゃんが割って入る。


「あきらめなさい。貴方は獣人の救世主なんだからもう無理よ」

「いや。まだ何とかなるよね」

「無理だって言ったでしょ。貴方はついに表舞台に上がったの。もう、誰も貴方を袖に下ろすことはしないわよ。私たち【衛星サテッレス】も、【勇者戦術伝承候補者貴方の兄弟たち】たちもね」 


 何て恐ろしいことを断言するのだろうか。

 僕なんて、末弟勇者長兄剣王たちに全てを任せて自堕落に生きるつもりなのに。


「ほら、いつまでももたもたしててもしょうがないでしょ。後のことは私たちに任せて、さっさと行ってさっさとケリをつけてきなさい」


 そう言ったヴァリちゃんに背中を押される僕。

 

「おいおい、ちょっ、ちょっと待ってよ」

「貴方がそう簡単にやられるとは思わないけどね。まぁ、油断しないで頑張って」


 抵抗虚しく、アメジストの街を追い出される僕。

 エギルも苦笑いをしながらついてくる。

 背後からは獣人のみんなの明るい笑い声が。


 こうして僕らは、次兄がいるという【アウルム】へと向かうのだった。





 ………………あっ、ペリルさんから詳しく話を聞くのを忘れてた。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


お久しぶりです。

こちらにも手を出さないとと考えながら早数ヶ月。

作者は何をやってるんでしょうか。


他作品が終わりそうなので、こちらにも力を入れていこうと思っています。

気長にお付き合い下さい。


そして、危うく長兄に預けられそうになっているエギルてした。



短編新作を投稿しています。


『転生したらトイレの神様だった件』


異世界転生したトイレの神様がウォシュレットトイレの設置を目指す物語です(汗)


トイレ縛り、人の目に触れない縛りでどこまで話を膨らませられるかの実験作です。

そろそろ佳境に入ります。


是非、ご一読下さいませ。


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの

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