第48話 悪童の嘆声

「うおおおっ、死ぬ!死ぬうううう!!!」

「ハッハッハ、大丈夫大丈夫。死んだら蘇らせるから安心してくれよ」

「それって、死ぬこと前提じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁ!!」  


 オレはエギル。

 恩人のアルバートにちょっとだけ、否、ほん〜のわずかだけ憧れて共に旅をしている男だ。




 オレは先日、アルに剣を教えて欲しいと頼んだ。


 これまでは搾取される立場だった自分が、力をつけたら何か変われるのではないか、もしもその時が来たら自分の力で大切なひとを守りたい。


 ずっとそんなことを考えていて、先日、ついにアルに剣を学ばせて欲しいと頼み込んだのだった。


 だが、そう言ってから気づいたことがあった。

 仮に、アルがオレに剣を教えるとなると、それは【勇者戦術ブレイブ・アルテース・ベルリー】の一端を示すことになるのと同義。

 そんな秘奥を、こんな一介の孤児が教わろうことなど出来るはずもない。


 ついつい、アルの人の良さに絆されて頼んでしまったが、そんなことは不可能だ。


 自分の浅はかさに情けなくなりながら、その申し出を断ろうと口を開きかけたとき、アルから予想外の言葉を聞く。


「いいよ。ただ、厳しいけど」


 もっと、難色を示されるかと思ったが、アッサリと承諾されたことに、オレは驚くとともにこの上ない喜びを感じていた。




 ――――――――そう、このときまでは。




 ところが、実際に訓練を始めてみると、頭のおかしいことばかりやらされた。

 剣でひたすら岩を斬るだの、目隠しして生活するだの、およそまともな人間の為す訓練とは思えないほどに、それはメチャクチャなものだった。


 しかも、その助言が「シュッと振ってバーン」だの「グゥーッと構えて腰をガッ!」だの「そしてググッとなったらウンッっと溜めてパッ!」だのときた。


 分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



 そして今、オレは魔物の群れの中に放り込まれてひたすら剣を振るっている。


 何が「型は必要ない」だ!

 何が「乱戦の中で振るう剣が自分の剣だ」だ!

 何が「無意識のうちに剣を振るようになれ」だ!


 出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 オレは今、涙を流しながら【愚者アルバート】に師事したことを後悔していた。


          ★★


 今は亡き父さん母さん、そして、遠い地にいる妹よ…………オレはまだ生きています。


 毎朝、生きていられることに感謝する日々を過ごして早数週間。

 

 オレは一本の剣をアルから手渡される。

 なんでも、すごく軽い剣をからくれるとのこと。


「…………あれは、まさか【魔剣グラム】か?」

「八部鬼衆【剣】の【ホウゲン】の愛剣…………」

「ああ。そういえば、ホウゲンのヤツ。武神様と一合も打ち合うことも出来ずに斬られてたな…………」

「剣を交えることが出来なければ、もう魔剣もクソもねえな」

「「確かに…………」」


 なんか、妙に達観した獣人の連中から、穏当でない言葉が聞こえてくるんだけど、もらっていいのかこれ? 

 そして、オレが使ってもいいのかこれ?

 ついでに【武神】って誰だそれ?


 オレは手元の剣をマジマジと眺める。

 漆黒の刃体に深紅の古代文字が刻まれたその剣は、重さを感じないくらいに軽く、触れただけでも鉄を両断するくらいに鋭い。


 オレは、アルにこの剣の貴重さを説明し、自分で使わなくてもいいのかと尋ねる。


 えっ!?

 斬るだけなら、そのなまくらな剣で十分?

 

 まさか、希少かつ貴重な魔剣をいらないって言う者がいるとは、さすがのオレでも驚いたわ。

 オレに気を遣わせないようにとの配慮かも知れねぇが、もっと言い方ってあるんじゃねぇのか?


 心なしか、魔剣が泣いているようにも感じるぞ。


 オレはひとつため息をつくと、ありがたく魔剣を使わせてもらうことした。


 これから頼むぞ、魔剣グラム。


          ★★


 こうしてオレは、今日も魔物の群れの中に放り込まれることになる。


「うおおおっ、死ぬ!死ぬうううう!!!」

「ハハハハハハハハ!」

「笑ってねえで、助けろってんだ!!!」


 涙を流しながら必死に剣を振るうオレ。


 魔剣のおかげで、剣の重みは感じない。

 だが、それでもこう何度も何度も死地に放り込まれるとだんだんと心が摩耗していく。


 もう、どうにでもなれと思った瞬間、肩の力が抜けた。

 

 あれっ?

 オレってこんなに動けたか?


 魔物のこの動きはこの間のヤツに似てるな…………。

 なら、ここで剣を合わせれば…………。


 自分の動きが、まるで別人のようだと感じる。


 そして――――――。


 これが「シュッと振ってバーン」なんだ!!

 じゃあこれが「グゥーッと構えて腰をガッ!」かよ?


 思わず笑いが込み上げてくる。

 そうかそうか、これは確かにそうとしか言いようがないな。

 だが、それさえ分かれば、あとは自分が圧倒的に強くなっていくことを実感するだけだ。


「じゃあこれが、『グゥーッと構えて腰をガッ!』だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 こうしてオレは、満面の笑みを浮かべて、魔物の群れへと突っ込むのであった。


「ワハハハハハハハハハハ!!オオリャァァァァァァァア!!!」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ええ、彼がまともな指導が出来るとは思ってませんでしたよ。

蓋を開ければこのザマです。


そして、なにかに覚醒してしまったエギル。


魔剣込みですが、剣聖と数合は渡り合えるくらいにはなっています。



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