第47話 愚者の指導

 次兄に会うために、旧【カエルム神国】までやって来た僕とエギル。


「何でそんなに簡単に敵陣へ乗り込むんだ?信じられねぇよ。自殺行為じゃねぇか」


 当初、エギルにはそう呆れられたが、失敬な。

 これは、僕の緻密な計算によるものだよ。


 敵地とは言っても、魔王軍のヤツらがせいぜい一部の町や村を支配している程度だろ?

 しかも、魔王軍の主要戦力は【勇者末弟】や【剣王長兄】と対峙してるからここにはいない。

 となれば、コソコソと入り込めば絶対にバレないはずだ!


「…………また、くだらねえこと考えてるだろ?」


 エギル、そのジト目は止めなさい。

 それに君は何だかんだ言っても追いて来るだろ?


 こうして、僕たちは敵陣へと入り込んだのだった。


          ★★


 旅の途中、エギルから剣を教えて欲しいと頼まれたので、厳しく指導する。

 やるからには、徹底的にやるよ。


「なぁ、グワァーとかザクッだとか、そんな効果音だけじゃなくて、もっと具体的に教えてくれよ」


 エギルが不満げにそう抗議をしてくるが、言葉にするとそんな感じにしかならないんだよ。

 考えるな感じろ。


          ★★


 エギルがグズグズと僕の指導方法が悪いと騒ぐので【勇者戦術ブレイブ・アルテース・ベルリー】流にすることにした。

 要は、ひたすら実戦を繰り返す方法だ。

 ウチの長兄なんては『一の実戦は百の訓練に勝る』と豪語するくらいだからね。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!死ぬ、死ぬ、死ぬうううううううう!!!」


 ハッハッハ……。

 大丈夫、大丈夫。

 死ぬって言っているうちは死なない。

 まだまだやれる!


 それに、死んでもすぐに蘇らせるしね。


         ★★


 旧カエルム神国の領地に入ると、魔物の他に魔族の連中からも襲われることになった。

 ただ、僕の推察どおり、主力は別なところにあると見えて、襲ってくる魔族たちは大したことがない。


「おい!アル!これは無理無理無理無理無理無理!見えねぇ!攻撃が見えねぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 戦わせているエギルが何か叫んでいるが、魔物や魔族の声に紛れてよく聞こえない。

 まあ、うまく避けているから大丈夫だろう。


 それにしても、エギルは敵の攻撃を避けることに関しては天才的だな。

 この旅で一度も致命的な怪我は負っていない。

 これは優れた才能だ。

 伸ばしていかなければ………………。


          ★★


 エギルの弱点が発覚した。

 筋力が足りなくて、攻撃が相手に伝わらないのだ。


 わざわざ相手の行動を縛って、エギルに攻撃させてみたのだが全てその体表で弾かれていた。

 まだまだ、斬るべき線も見えないようなので、どうにかしなければならない。


「剣が重いんだよ!こんなの振りかぶるだけで精いっぱいじゃねぇか!!」


 文句が多い弟子だな。

 ウチの長兄なら、君の年のころにはそれよりも重い大剣を振り回していたぞ。


           ★★


 獣人たちが襲われていたので、助けることにした…………エギルが。

 ほら、そこの剣士なんて腕が4本もあってなかなかいい練習相手だよ。

 えっ?

 無理?

 死ぬ?


 う〜ん、仕方ないなぁ。

 獣人たちも怪我をしてるみたいだし、さっさと片付けようか。

 ほら、こうすると簡単に相手の剣を両断出来るんだよ。


「………………何で鉄の剣なまくらで魔剣を両断出来るんだよ」


 エギルが何か呟いてるけど、この4本腕が煩くてよく聞こえない。

 八部……奇襲?奇習?鬼衆?


 よく分からないが、ちょっと黙ってくれるかな。

 僕は4本腕さんの首を切り飛ばす。

 

 おっ、この剣はなかなか良いものだ。

 もらってもいいよね?


          ★★


 魔物や魔族を殲滅して、襲われていた獣人たちを助けたら、何故か平伏されてしまった。

 ちょっと怪我を癒やしたり、蘇らせたりしただけなのに大げさな。


 僕が何ものかと尋ねられたので、勇者の兄貴だと伝えると、誰かが『…………愚者』と呟く声が聞こえる。

 この国にまで、僕の二つ名が広まっていることに驚きだ。


 あっ、ひとりの獣人が獅子の人に思いっきり殴り飛ばされている。

 うわぁ、ボコボコだよ…………ちょっと引く。


 ボコボコにされた狼の獣人さんに泣きながら謝罪されたが、何のことか分からないのでとりあえずうなずいておく。

 あまりにも気の毒で怪我を癒してあげたら、一生の忠誠を捧げられてしまった。

 お気になさらずに。


「うわぁ、また人たらしが始まった…………」


 エギル、可哀想な目で僕を見つめるのは止めてくれ。

 あっ、そうだ。

 さっきの4本腕が持っていたこの剣をもらってもいいよね?


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ちょっと、短めの話を重ねてみました。


書いていて思いましたが、相変わらずの愚者っぷりに作者はドン引きです(笑)


モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。

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