第46話 獣王の驚倒

 私の名は【ベリル】


 かつて、歴代の獣の王を輩出していた【獅子族】の男だ。

 世が世であれば、私がその称号を受け継ぐはずであったが、先代の獣王―――私の父親が【カエルム神国】に膝を屈したため、我々にとって聖地とすら呼べる広大な草原と豊かな森林が奪われた。


 その後、獣人たちはとして国の僻地に追いやられ、臥薪嘗胆の日々を送らざるを得なかった。


 そんなとき、魔王軍の襲撃により、カエルム神国が滅亡し国の重鎮たちは早々に国外へと逃亡した。

 だが、我々獣人にとっては聖域の奪還は悲願。

 国を失っても我々だけは、踏みとどまって魔王軍と戦い続けていた。


 太古の言葉で【歓喜の水】を意味する、ここ【ウィヌム】を奪還するために。



「ベリルッ!逃げろ!」

「糞ッ!罠だ!」

「ここは、我々にお任せを!」

「ダメだダメだダメだダメだ!お前たちを残して行くなど……」

「お前は獣王だ!」

「そうよ、仮に聖地を取り戻しても率いるべき者がいなくては……」

「娘がいる!だから、俺も!」

「へへへッ、義理堅いヤツだなぁ」

「だからこそ、お前をここで失う訳にはいかない!」

「【ルミ】!早く、王を連れて行け!」

「分かりました!ご武運を!!」

「ああ、先にあの世で待ってるぜ!」

「せいぜいゆっくりとやって来なさいよ!」

「ダメだ!【アガット】!【ジェンマ】!」


 その日、魔王軍四天王のひとり【聖杯ハート】の【コシチェイ】が聖地を離れるとの情報を得た我々は、聖地奪還のために主なきウィヌムの魔王軍駐屯地を襲撃した。


 だが、それこそが罠であった。


 コシチェイ配下の【八部鬼衆】たちは、万全の体制で我々を待ち受けていたのだった。


 圧倒的に格上の相手に、襲撃をかけた同胞たちが、ひとりまたひとりとその生命を散らしていく。


 そして今、私は仲間たちの屍を踏みしめて無様に尻尾を巻いて逃げるところであった。


 次々と八部鬼衆の手にかかる仲間たち。

 私は慟哭する。


 神よ、どうかお助け下さい。

 私の生命で、あるいは人生で赦されるのならば、いくらでも捧げます。

 だから……。

 だから……。


 伸ばした手の先で仲間たちが斬られ、潰され、喰われ、餐まれて行く。


「ああああああああああああああああああああ!!」


 絶望の絶叫が平原に響く。


 

 だが、そのとき。

 この修羅場には似つかわしくない会話が聞こえてくる。


「だから〜、この線を斬ればいいんだよ」

「線ってどこだよって言ってんだろうが!」

「ここ。これ見えない?」

「見えるわけねぇよ!!」

「え〜、マジで?」

「マジで!!」

「そうなんだ。簡単なのに。こうやって剣を線に添わせるだけで〜、ほら」

「『ほら』じゃねえええええええええええ!」


 次々と八部鬼衆を切り捨てる青碧の髪を持つ青年と、それを口汚く罵る少年。


「おっ、コイツなかなか良い剣を持ってたぞ。ほら、エギル使いなよ」

「バッ!バカッ!おまッ、お前、これって『魔剣』じゃねえかよ!」

「別に驚くこともないだろ?魔剣なんてさ、単なるよく切れる剣ってだけでしょ?」

「違ッ!…………ってか、そんなオンボロの鉄剣で戦ってるアルが異常なだけだな…………」

「手に馴染むから重宝してるよ」

「………………そんな話じゃねえんだけどな」


 呆れたように少年がため息をつく。

 青年は何気ない話をしながらも、八部鬼衆を始めとした魔王軍の兵士たちを次々と屠っていく。



「……………………………………えっ?」


 そして私は、大口を開けて呆然とする。

 

 魔王軍兵士の断末魔の悲鳴が途切れたとき、そこには数多の魔族の躯が転がっていたのだった。


「………………武神様が降臨なされた」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


書いてて楽しく鳴ってきた。

次の更新も早いかもです。



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