第45話 愚者の当惑

頂上てっぺんを取るのなんざ簡単なことよ。かかって来るヤツを片っ端から返り討ちにすりゃあいいんだ』


 これは、初代勇者が残した言葉と言われている。


 なんでも、『不良ヤンキー』という種族の生き様らしい。



 先人たちご先祖さまは、そこに深い意味を見出そうとしたようだが、終ぞその言葉を理解出来ずにいた。

 


 しかし今、僕はその言葉の意味を強く噛み締めていた。


 義兄に遭うために、帝国の南西部に隣する旧【カエルム神国】に入った僕とエギル。

 その道中で、魔族に襲われていた獣人たちを救助したところ、次から次へと魔族がやってきたので、片っ端から倒していたところ、いつの間にか、この【ウィヌム地方】を開放しちゃっていたのだ。


 これが、初代様の言っていた頂上てっぺんを取ると言うことなのだろう。

 見渡すと、この地に魔族の姿は無くなっていた。


 あれ?


          ★★


 この地方は元来、僕らが助けた獣人たちの聖地だったとのことで、それならこの人たちに住んでもらえれば良いやと告げたとたんに、この状況を迎えたのだった。


「………………おい、何でこうなってるんだよぉ」 

「知らないよ。僕だって教えて欲しいくらいだ」


 エギルにそう答えた僕の目の前には、数多の獣人たちが片膝をついて臣従の礼をとっている。


「アルがあっちでもこっちでもホイホイと人助けするからこうなるんだぞ。元のところに返して来いよ」

「そんな、捨て猫を拾ってきたかのように言うなよ」


 僕がエギルにそう反論するが、そこに力は込もっていなかった。

 すると、獣人たちの先頭にいた獅子頭の獣人が、頭を上げると手放しで褒めてくれる。


「いやぁ、それにしても、さすがはアルバート様です。【聖杯ハート】の【コシチェイ】配下の【八部鬼衆】をバッタバッタとなぎ倒す様は、まるで武神様が降臨なされたかと思ったほどです」


 そうは言うものの、彼の笑顔がまるで獲物を前にした猛獣のようでとても怖い。


「思えば我々の聖地を人間どもに奪われたのが悲劇の始まり……。そして、先来の魔王軍の襲来……。もはや、我々がこの地を取り戻すことは不可能と嘆いておりました…………」

「…………ねえ、長くなる?」

「ええ、これまでの想いを滔々と話させていただけるならば、あと3日ほどは……」

「却下。お礼についてはもういいからね。とりあえず、帝国のくされ縁シュルトに救援を求めたから悪いようにはしないと思うよ」

「何と、そこまで既に手配していただけるとは、不肖この【ソンブ】感服致しました」


 なんか、この人たち思いっきりへりくだるんたけど…………。

 あまりにも仰々しくて、逆にこちらが申しわけなくなってしまう。


 あの程度のヤツらなら、あなたたちでも十分だったんじゃないかなと、小一時間くらい問い質したいくらいだ。


 とりあえず、剣聖シュルトを呼んだから、あとはあいつに任せよう。

 うん、そうしよう。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


昨日、『シゲポン』様にレビューコメントを書いていただいたので嬉しくなって緊急投稿。


相変わらず適当な人助けをしてますね、この人。



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