第43話 悪童の諦念

「仰せのままに、弱者救済を成し遂げてみせましょう」


 あ〜あ、知らね。

 またひとり、無自覚に誑し込んじゃったよ。


 オレは、目の前で愁傷に頭を下げている商人のことを諦めた気持ちで眺めていた。


 相棒アルバートは、自分が才能がないとしているため、自分が何かをしても取るに足らないものだと思いこんでいる。

 

 単純に考えても、剣王に匹敵するほどの剣の腕前を持っていて、死者の蘇生を簡単に行える人間がいるだろうか。

 この調子だと、義弟に叶わないと言っている魔術の能力もすごいんだろうと予想できる。

 つまり、アルは高い水準であらゆる技能を有する万能の天才なのだ。


 だけど本人は、一番たる技術を持っていないから自分は些細な人間だと勘違いしているのだ。


 それは、優秀な義兄弟に囲まれて育った弊害…………もはや呪いと言ってもいいだろう。


 だから、その力を惜しみなく使っても誇ろうとしないし、苦にもとめない。


 ホントに愚者だよ。


 

 だけど、その人となりが周囲の人々には好ましく思われ、無意識のうちにありとあらゆる人々を虜にしていく。


 かく言うオレもそのひとりだが、本人に告げると「へえ〜っ、そうだったのかぁ〜」って得意気にニヤニヤすると思うので、絶対に言ってはやらないが。


 まあ、そんな訳で、死の淵から引き戻した商人に対して偉ぶることすらせずに、お礼を断ったアル。

 

 おそらくは、「大したことをしてないのに、お礼なんて仰々しいことを言われても…………」なんて思ってるんだろうな。


 ――――自分の生命の価値は自分で判断してもらって、その分を弱者の救済に使って下さい。


 そして、お礼を断るためにとんでもないことを言い出した。

 おいおいおいおい、すごいこと言ってるぞ?


 自分の価値…………それは、何らかの信念を持って生きた者にとっては何ものにも代えがたい。

 極端な話、性格が歪みきっている者ならば、自分の価値は銅貨一枚だなんてのたまうだろう。

 だが、目の前の商人は、風体を見てもそれなりの規模の商いをしている人物だと思えた。

 そんな人物が、自分の価値を貶めることは決してないだろう。


 つまり、この言葉はこれからの人生を弱者のために使えと言っているようなもの。

 多分本人は、そこまで考えてはいないんだろうけど、当の本人は神がかった才能を持つ人物が言うならばと曲解するだろう。


 そして、その結果、商人はこうして頭を下げているのだ。

 自分にそんな崇高な使命を与えてくれたのだと誤解して。


 こうして、アルバート信者の出来上がり。


 オレは人が勘違いから生き様を変えていく姿を諦めた目をして眺めていた。


         ★★


「すると、うちの次兄あには行方不明だと?」

「左様です」


 オレとアルは、蘇った商人――――【ブンザ・キノクニヤ】からどうしてもと懇願されて食事を一緒にしていた。

 寂れた奇跡の村だが、そこでも一番の宿屋というだけあって、出てくる食事はとても美味い。

 ここしばらく、野宿しかしてなかったオレたちにとっては涙が出るほど嬉しいことだ。


 オレがバクバクと料理を頬張っていると、アルとブンザさんがそんな話をしていた。

 どうやら、アルの義兄は行方不明のようだ。


「でも、義兄には【クリスタ】が着いているはずだけど」

「【癒聖】の称号を持つ【クリスタ・フォン・フリカ】嬢ですな」

「うん、彼女は義兄ひとすじだから、決して離れないとは思うんだよね。だから、そうそう何かをされるとも思えないんだけど……」

「ええ、私もここに来るまで調べたのですが、どうやら【癒聖】様は、隣国の【カエルム神国】にいらっしゃるとか…………」

「カエルム!?」


 ちょっと聞こえてきた会話だが、アルが驚くのも無理はない。

 そこは、魔王軍に攻め滅ぼされた国だからだ。

 現在も魔族の実行的な支配が続く、いわば敵陣だ。

 そんな、ところに【衛星サテッレス】のひとりがいるなんて…………。


 そんなことを、ぼんやりと考えていたオレの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。



「そうか……。じゃあ、ちょっと行ってみるか……?」



 はい?


 ………………………………ナニヲイッテイルノカナ?


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


お久しぶりです。

なかなか、難産でした。


ついに、アルバートたちが敵陣に向かいます。


ご期待下さい。

更新は早めにする予定です。




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