第40話 愚者の煩慮

思ったよりも長くなるので、商人の話は一旦削除しました。

ひと通り、アルの視点が終わってから、挿し込む予定です。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「本当にありがとうございました」

「いえいえ、お大事に〜」


 涙を流して何度も何度も頭を下げる親子を見送った僕とエギルは、急造の治療会場と化した奇跡の村の広場で大の字になって地面に倒れ込む。


「終わったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「やったぜ!!!」


 僕自身は、結構な魔力を使ったし、何より多くの人の容態を見極めるのに(別なことを考えまくっていたとは言え)集中し続けたせいでクタクタだ。

 エギルも大勢の人々を取りまとめるのに駆けずり回ったせいで、精根尽き果てたといった感じか。

 あれだけの人を、大きなトラブルもなく調整するって相当すごいことだと思うんだけど、それを本人に告げると恥ずかしがるから言わずにおく。


「そう言えば……」

「あん?」


 僕は横になりながら、ふと思いついたことを口にする。


「あの偉そうな人はどうしたかな?」

「横入りして治癒を断られたら、逆ギレして帰ったヤツか?」

「そう……だけど、言い方がキツくない?」

「良いんだよ。金があれば世の中どうにでもなるなんて思ってるようなクズは」

「…………でもさ、それもひとつの心理だよね」

「…………まあな。だけど、オレはそんなのは嫌なんだよ!」


 両親を亡くした後、悪い大人たちに騙されて貧しい暮らしを送っていたエギルだが、まだまだこの世の中は金だけではないと信じたいのだろう。


「…………中には金になびかない、お前のようなヤツだっているだろうが」

「えっ!?」

「何でもねえよ!」


 エギルが何かポツリとつぶやいたようだが、僕が聞き返すと顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

 まだまだ、こんな世の中を信じているなんてかわいいところもあるじゃないかと、微笑んでいたら小石を投げられた。


 何故に?


「んで?」

「何が?」

「そっちが話を振って来たんだろうが。逆ギレ男についてよぉ」

「ああ、そうだったね。いや、さ。あの人も何処か悪いところがあるからこの村に来てたんだよね」 

「…………そうだな」

「お金があるんだから、わざわざこんな辺鄙なところまで来る必要がないのにさ、ここにいたってことは何か訳ありなのかなって思っちゃってさ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。アルって、ホントに底抜けのお人好しだよな」


 いや、僕はお人好しなんかじゃないとは思うよ。

 正直なことを言えば、あんなに大騒ぎしたヤツの治療なんてしたくないし。


 たださ。

 あのせいで、病気が悪化してたら目覚めが悪いというか、何というかね……。


 僕がそんな説明をすると、エギルは横になったまま両足を大きく頭の方に引き上げると、そこから勢いをつけて跳ね起きる。


 おおっ!

 なかなかの運動神経だ。


「それがお人好しだってんだよ。要は、そいつの居場所が知りたいんだろ?しょうがねぇから、探してきてやるよ。だから、それまで休んどけよ」


 エギルは、ポンポンとズボンのホコリを払い落とすと、粗末な家が立ち並ぶ方向へと駆け出して行く。

 僕はそんな背中を見送りながら、心の中で感謝するのだった。


 毎回毎回、いろいろと頼んですまないね。


 …………すまないねぇ。

 僕がこんな体たらくでさえなければ……。

 おとっつぁん、それはいわない約束でしょ。


 一瞬、そんなセリフが頭をよぎったが、口に出さなくて良かったと思う。


          ★★


 エギルが戻ってきたのは、それから半刻ほどのことだった。

 馬鹿みたいに地面で寝転んでいたら、治療してあげた人たちが集まって来てしまい、やたらと心配されてしまったので、大丈夫だとアピールするために軽く剣を振っていた時だった。


「…………休んどけって言ったよな?」

「いや、さすがにずっと寝てる訳にはいかなくて……ねぇ」

「だからって、あんなに鬼気迫る表情で剣を振るか?」

「相手がそこにいると思わないと、それは実践的な鍛錬とは言わないからね」

「で、どうせ想定した相手は剣王なんだろ」

「今回は模擬戦レベルだからそうでもないよ」

「はいはい、そうですが……」


 エギルの僕を見る目が冷たすぎる気がする。


「まぁ、いいや」

「いいの?」

「良くはないけど、とりあえず話を進めるからな」

「うんうん」

「とりあえず、あの逆ギレ男の泊まっている宿は分かったから行くぞ」

「えっ!?こんなに早くに?」

「ったり前だろ?オレを誰だと思ってるんだよ。とにかく行くぞ」


 そういった訳で、僕たちはあの偉そうな人が泊まっているという宿屋に向かったのだった。

 エギルの話では、かなり有名な商人だったらしく、下手な貴族並の権力を持っているらしい。


 うわぁ……。

 そんな人のことを怒らせたのかぁ……。

 ちゃんと謝っておいたほうがいいよね。


 そんなことを考えているうちに、商人が宿泊している宿屋に到着する。

 そこはお世辞にも高級とは言えない、古ぼけた二階建ての家だった。

 それでも、この寂れた村では唯一の宿屋だと聞く。


 まぁ、これまではあまり人も寄り付かないような辺鄙な村だったから仕方ないよね。

 それにしても、何やらドタバタしているようだが、どうしたのだろうか?


 エギルが手慣れた様子で宿屋の主人に取次ぎを依頼すると、玄関先にやって来た商人の補佐役の人から衝撃的な事実を告げられた。


 商人がさっき息を引き取ったばかりだ、と。




 えっ!?

 えええええええええ!?



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


構成上、商人目線の話はこの後にするべきだと判断しました。

何事もなかったかのように、生あたたかく見守っていただけると幸いです。



まだ10万文字に至ってはいませんが、本作品でもカクヨムコンにエントリーしています。

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