解放の章
第38話 愚者の治癒
見切り発車ですが、第三章を始めます。
こちらはゆったりと進めたいと思います。
どうぞお楽しみ下さい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらずに……」
「お礼は……」
「いえ、大丈夫ですよ」
はい、こちらはひたすら治癒魔術で人々を癒やしているアルバートです。
「おい、アル。まだまだ来るぞ!」
「え〜っ、疲れたぁぁぁぁぁ」
「いいけど、この期待に満ち溢れた目を裏切れるのか?」
僕が面……いや、治療する人の数が多いことに、音を上げると、お目付け役と化してしまったエギルが身もふたもないことを言う。
チラリと周囲を見回すと、身なりがボロボロの人たちが期待を込めた目でこちらを見つめている。
「【聖人】様……どうか……」
「お見捨てになられないで下さい」
「我々をお助け下さい」
そんな懇願する目を向けられたら、小心者の僕は断れない。
はぁぁぁぁぁぁっ、仕方ない、もう少しだけ頑張るか。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
余計な仕事の一切合切をリンフィアや【剣聖】シュルトたちに丸投げして、【トランシトゥス】の街から旅立った僕とエギルのふたりは、行くアテもなく帝国内を放浪していたが、資金が心もとなくなってきた。
「困っている人がいたら、すぐに財布ごと渡そうとするからだろうが」
何故かエギルが僕を責める。
解せぬ。
足りなくなれば魔物でも狩って来ればいいのだろうが、僕は働きたくないでござる。
基本的には、布団に入ったままで好きな小説でも読んでぬくぬくと過ごしたい。
そんな訳で、これからどうしようかな〜って考えていると、とある噂を耳にした。
曰く、【奇跡の街】と呼ばれるその街では、【聖者】が病気にかかったり、ケガをしたりした貧しい人々を無償で助けているとか。
【聖者】といえば、僕の次兄の二つ名だ。
誰よりも優しい人物で、剣や魔術も巧みだが、特筆すべきは比肩する者がいないほどに隔絶した治癒魔術の腕前。
僕も候補者時代に、何度も長兄に殺されたのを蘇生してもらったことか……。
よし、しばらく次兄に養ってもらおう。
そう思いついた僕は、次兄のいる【奇跡の街】に向かったのだった。
「絶対に、余計なトラブルに巻き込まれっからな」
エギルがそう断言する。
失礼な。
ちょっと、謀反を企む領地に足を踏み入れたり、魔族が潜伏していた村に迷い込んだりしただけじゃやいか。
そうして、ようやくたどり着いた【奇跡の街】ではあったが、そこは建物は大きく崩れ落ち、ゴミや死骸が散乱していた。
以前に立ち寄ったトランシトゥスの『路地裏』よりももっと荒廃している。
あちこちには、一見してケガや病で苦しんでいると分かる人々がうずくまり苦悶の声を上げている。
「うわぁ、何だよこりゃあ」
「酷いね。義兄さんはいったい何をしてるんだ」
まるで地獄のような光景を呆然と見つめる僕。
すると、建物の影で雨風をしのいでいたひとりの少女が突然咳き込むと、多量の血を吐き出していた。
ちょっとマズイな。
僕はそう判断すると、後先のことなど一切考えずにその少女の治療を行っていた。
そう、治癒魔術を展開したのだ。
「おい、アル!マズいって!おい!!」
エギルがそう言って僕のローブを引っ張るが、本能的に動いてしまったものは仕方ない。
治癒魔術が効果を現し、少女の呼吸が穏やかになる。
良かった……。
そう思って顔を上げると、周囲には何かを期待するかのような粗末な服装の人々の姿が。
「ほらぁ、言ったじゃねえか……。もっと隠れてやればいいのに……」
こうして、僕はたくさんの人々に治癒魔術をかけ続けることになったのだった。
「アル……。言ってもいいかな?」
「ん?」
「この【愚者】が!!」
うん。
否定できないや。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
なんか『紅蓮の氷雪魔術師』が好調なので、そっちにも多少力を入れるため、こちらは週1,2回の不定期更新になりそうです。
気長にお待ち下さい。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
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