第35話 悪童の決意

―――自分が出来ることしかやってないから、苦労はしていない。

  

―――自分が助けられるのは、せいぜい手が届く範囲の人だけだ。


 そう言い切ったアルの顔は、どこか寂しげだった。

 


 は?

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


 それを聞いたオレは、そのあまりの超理論に開いた口が塞がらなかった。


 …………コイツは全く自分の価値を理解していない。



 自分が出来ることだけ……。


 剣術や魔術に優れ、人を蘇生出来るほどの治癒魔術も使いこなす。

 しかも、大勢の人間を蘇らせても余りあるほどの魔力だ。

 そんなことが出来るヤツなんざ、他にはいねえだろうが!!


 手が届く範囲……。


 オレやエイルばかりでなく、たまたま泊まった宿屋の娘ですら、その窮状を知れば躊躇することなく助ける。

 そんな優しさを持ったヤツなんざ、他にはいねえだろうが!!



 ああ、オレですら分かってしまった。

 どうしてコイツアルバートが【愚者】と呼ばれるのかを。


 中にはその本質を知らずに、単に兄弟たちよりも劣っているからという、ごく一面だけを見て侮蔑する者もいるだろう。

 だけど、おそらくは―――アルのことを知った者は、自分の実力をよく理解もせず、誰にでも無償の優しさを施すその姿に、忸怩たる思いを抱いてそう呼んでいるのが大半なはずだ。

 

 実際、剣聖様なんかは、苦虫を噛み潰したような顔をしてアルのことを【愚者】呼ばわりしているし。


 今のオレならば、その気持ちがよく分かる。


 どうして、そこまで自分を卑下するんだ。

 どうして、助けられた者の声を素直に受け取れないんだ。


 そう叫びたくなるほどの思いをグッと堪える。


 多分、オレなんかがそう言っても、アルは笑って流すだけだろう。


 自分なんて…………と。


「エイル……」

「うん、分かってる。私はもう大丈夫だよ。病気も治してもらったし、セバスさんやシュルト様が協力して下さるから」

「でも、お前は……」

「私は今までずっとお兄ちゃんに助けてもらっていたから……。もう十分。これからはお兄ちゃんの好きなように生きて欲しいんだ」

「エイル……」

「それに、もう二度と会えないわけじゃないんでしょ?」

「あっ、ああ……。それは当然だ。きっと戻ってくるさ……」

「だったら問題ないよね。それに、さっき皇女殿下に後ろ盾になってくれるって言われたんだ」

「殿下……に」

「うん、アルバート様に頼まれたからって……。すごく優しい人だね。アルバート様って……」

「あっ、ああ……。そうなんだ、だけど世の中を知らねえからさ……」

「うんうん……。だから、お兄ちゃんが助けてあげて……」

「そうなんだ。アイツ、このままじゃ絶対に悪いヤツに良いようにあしらわれちまうからな……」


 いつの間にかエイルと話しているオレの瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

 ちくしょう、オレをこんな気持ちにさせやがって……。


 内心で八つ当たり気味に文句を並べるオレ。



 こうして、オレの気持ちは固まったのだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


アルバートに対するモヤモヤ感を語ってもらいました。

そして、エギルの決意とは。


次回をお待ち下さい。




モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る