第33話 愚者の矜持
「それでは、その首領は連れて行かれたのですね」
「申し訳ありません。事ここに至って【カリブンクルス王国】との間に火種を残すのは得策ではないと愚考した次第です」
「構いません。残った者たちから聞き取りをすれば十分ですし……。それよりも私はアル様を後ろから刺したという……」
「はっ、【ボルグ】についてはアルバートが蘇生し、既に捕らえてあります」
「結構です。キッチリと自分の悪行を思い知らせなければなりませんからね」
シュルトの報告を鷹揚にうなずきながら聞いているリンフィア。
さすがは皇女殿下。
為政者としての荘厳な雰囲気が全身から放たれているようだ。
だけど、ちょっと剣呑な笑顔をしているように見えたので、僕は思わずゴシゴシと目をこする。
「アル様、どうしました?」
「あっ、いや何でもないよ。どうやら見間違えたみたいだ」
そう言って僕に微笑むリンフィアは、いつものように可愛らしかった。
「ところで、エギルたちのことは任せてもいいかな?」
「ええ、お任せ下さい。そのために、最も信頼できるじいやを連れてきたのですから」
僕がリンフィアにエギルたち兄妹のことを頼むと、彼女は自信満々に答える。
良かったなぁ。
そう思って振り返ると、そこにはあのふてぶてしい態度はどこに行ったのか、思い詰めた表情で俯いているエギルがいた。
「どうしたよ、エギル」
「…………うして」
「ん?」
「どうしてお前は、そんなに優しくしてくれるんだよ」
顔を上げたエギルは、その特徴的な瞳に涙を湛えていた。
「何で……何で、こんなオレなんかに……。妹は……エイルはまだしも、俺なんて人を騙したり、盗みに手を出すような最低な男だ……。それなのに……それなのに……」
どうやら、今までの行いに思うところがあるようだ。
エギルは複雑な思いの丈を口にする。
仕方ないなぁ……。
僕はエギルの頭をポンと叩くと告げる。
「別に僕は無理をして優しくしてるわけじゃない。単に出来ることをしてるだけだよ」
「……えっ?」
その言葉が意外だったのか、驚いた表情のエギル。
どうやら、やっと僕はこの憎たらしいほどに生意気な少年を驚かせることができたらしい。
「ああ、そうさ。僕は所詮は【愚者】。【覇王】ほど強くもないし、【聖者】ほど優しくもない。ましてや【勇者】ほどに賢くもない。だから僕は自分が出来るだけのことをしてるに過ぎない」
僕はエギルの髪をぐしゃぐしゃと掻き乱すと、笑顔を浮かべながら続ける。
「僕の兄弟は多くの人のために戦い続けている。それに比べて僕は、せいぜい手の届くところの人しか助けてないよ」
「だって、お前はオレたちのためにいったん殺されたって……」
「それだって慣れてるからね。特に苦じゃないさ」
死に慣れてるって何だかよく分からない言葉だが、これは全て長兄のせいだ。
あまり気にしないでおこう。
「慣れて……る?」
キョトンとしたエギル。
「こんなの日常茶飯事の生活をしてたからね。とにかく、僕はたいして苦労もしてないんだから君はそんなに抱え込む必要はないんだよ」
「路地裏の悪党どもを殲滅するのが苦労じゃないって……」
「僕が必死になって何かを成し遂げたってことなら、もっと褒めてくれ。感謝してくれって言いたいところだけど、この程度じゃね……」
「……プッ、アッハッハ!大したことないから気にすんなってか?どこまでお人好しなんだよ!」
「はぁ?神妙な顔をしてたから励ましてやったら、何だよそれは!」
「バ〜カ!さすがに常識がなさ過ぎだろ」
「あ゛あ゛?何ィ〜」
「ホントにしょうがねえヤツだなぁ〜」
「何で僕がバカにされてるんだよ……」
励ましたら逆にバカにされてしまった。
解せぬ……。
「まぁ、本音で話し合える関係ですのね」
「しかし、こんな子供と張り合うのはどうかと思いますが……」
そんなリンフィアとシュルトの会話が聞こえるが、聞かなかったことにしておく。
みんな、僕に対して風当たりが強くないかな?
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
拙作がすごく多くの人に評価されて、ありがたく思います。
フォロワーが『紅蓮の氷雪魔術師』の半分以下なのに評価が同等とは……。
評価されると励みになりますね。
ついつい更新も早まります。
次回は、ついに『ラ○ウ』の出番。
ご期待下さい。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
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