第32話 剣聖の苛立
「それで、誰を処刑しますか?」
「いきなり!?」
落ち着かれたリンフィア殿下が、いきなりそう切り出される。
私自身、それはさすがに性急過ぎるだろうと思ったが、どうやらポーズだったようだ。
アルバートが慌てふためく姿を見た殿下は、満足そうに笑みを浮かべている。
蘇生した元孤児院の院長や、既に捕らえてある代官らを厳しく取調べた結果、長きにわたる不正があったことが判明した。
しかも、代官たちは不正が明るみに出たばかりに、口封じとして領主貴族である【カール・ツー・トランシトゥス=シュヴァルツシルト】をも殺害したとか。
あまつさえ、我々が伝え聞いていたお家騒動による一族滅亡すら代官らの偽装工作だったと聞いたときには、私ですら驚きを隠せなかった。
その上で、孤児院を背景にした人身売買や横領、シュバルツシルトの遺児を傀儡として領地を我がものとする計略があったことも。
そんな悪事を成し遂げられたのは、【隠聖】ペトラに連れていかれた【ガドル】と手を組んでいたのが大きかったようだ。
恥も倫理もなく悪事に手を染めることが出来る者というのは、それほどまでに厄介だと言うことだ。
ひとまずここまで調べた段階で、私は帝都に報告を行った。
【
宰相府が、この報告で何らかの対策を取るとは思っていたものの、まさか皇女殿下御自らが足を運ばれるとは思わなかった。
確かに、【愚者】がこの件に介入していたことも付け加えてはいたが……。
もちろん、
だが、一番は愛する者に会いたいという一途な想いがあることは否めないだろう。
「ダメだよ。リンは偉い人なんだから、人を処罰することをそんな性急に判断しては」
「どうしてです?」
「ウチの次兄が言ってたんだけど『大いなる力を持つ者がその使い方を謝れば、より多くの不幸が生まれる』って。だから、力の使い方には慎重にならないといけないんだよ」
アルバートが偉そうに言い聞かせてるけど、そのお方はちゃんと分かってるからな。
知っていて、お前がどんな反応をするかを見たんだからな。
ほら、こっそりセバスさんと顔を見合わせて満足そうに微笑んでるだろうが。
セバスさんも、深くうなずいてるし。
これは多分、お前を取り込むかどうかを量られたんだぞ。
…………それなのに、お前と来たら「どうよ、言ってやったぜ」って感じでドヤ顔してるし。
「君にはこの国のお姫様って権力がある。ともすれば、君の言葉ひとつでこんな街なんて跡形もなく消すことも可能だ。だからこそ、僕は大切な君にそんな暴君にはなって欲しくないんだよ」
「……大切、ですか?」
「ああ。一緒に小汚い盗賊から逃げた仲だろ。大切な
「……ア〜、ハイ。ソウデスヨネ〜」
コイツ、すげぇよ。
この一瞬で上げて落としやがった。
まるで一流ホストのように、殿下を手玉に取ってやがる…………。
まぁ、何も考えてないんだろうがな……。
自己評価が低すぎるばかりに、異性からの好意にも疎い……というか、自分が異性から好意を持たれる
だって一目瞭然だろう。
「どうしたのがっかりして?」
「……イエ、ナンデモアリマセン」
なんでそんな機微には気づくくせに、あからさまな好意には鈍感なんだよ。
不敬かも知れないが、こんなに素直な子が、頬を赤くしてアルバートの言葉に一喜一憂してるんだぞ。
普通なら、少しくらい気づくものじゃないか?
あ〜っ、見ていてイライラしてきた。
ずっと、言うまいとは思っていたが、やっぱり言わせてもらうぞ。
この【愚者】がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
鈍感系主人公です(笑)
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