第31話 愚者の警戒
僕が、リンフィアを静かに地面に降ろすと、彼女は頬を膨らませて不満を漏らす。
「え〜っ、もう終わりですか〜?」
「仕方ないよ。無礼だって【剣聖】様がお怒りになってるからね……」
「ヘロン卿……」
「バ、バカ!余計なことは言うな。殿下、こっ、これは違うのです……」
リンフィアがジト目でシュルトを見ると、大慌てで言い訳をする【剣聖】
おい、威厳はどこに行った?
やがて、シュルトの困った様子を見つめていたリンフィアは、天使のような笑顔を浮かべると冗談であると告げる。
「フフフッ。冗談ですよ。淑女としては少しはしたなかったですね」
「あっ、はい。確かにそのとおりです」
リンフィアの理解を得られたと、ホッと胸を撫で下ろすシュルト。
「ホッホッホ。これはこれは……」
するとそこに、拍手をしながら老紳士が現れる。
年の頃は60歳は過ぎているだろうか、真っ白な髪を後ろに流して、黒い燕尾服をキレイに着こなしている。
一見すれば老執事なんだけど……。
「お嬢様ががあれほど無邪気に笑われるとは……。珍しいものが見れましたな」
「じい!」
リンフィアが慌てて振り返り、ほっぺを膨らませて強い言葉で抗議する。
じいと呼ばれた老紳士は、にこやかな笑みを浮かべているがかなりの腕前だ。
うわぁ、隙が全然ないよ。
怖いなぁ……。
僕がそんなことを思いながら、リンフィアと老紳士とのやり取りを見ていると、ふと老紳士と目が合った。
「おお、こちらはアルバート様ですな。お初にお目にかかります。私は【セバス・フォン・アキュラ】と申します。非才なる身ではありますが、お嬢様のもとで執事長を任せられております」
「…………アキュラ?」
「バカ。先々代の拳聖様だぞ」
いまいち反応が鈍かった僕に、シュルトが気を利かせてコソッと教えてくれた。
「拳聖……。すると【シーラ】の……」
「はい。祖父になります」
「ああ、これはどうも……」
現【拳聖】のシーラは、僕よりも2つ年下。
末弟のケインと同い年だ。
過去には、シュルトと同じように一緒に鍛錬もした仲である。
そして彼女は現在、ケインとともに魔王討伐の旅に出ているとも聞いていた。
「孫娘を泣かせた男への報復と、宰相からも隙があれば殴ってみればいいと言われておりましたが、軽はずみに行動しなくて良かったと思っていますよ」
何かとんでもないことを言ってるんですけど!
いつの間にか、元拳聖に狙われてたぁぁぁぁぁ!
「シュルト、僕ってシーラに何かしたっけ?」
「あっただろうが、
「嘘!?あれのこと!?」
「至近距離で【
「マジで!?」
「マジで!!」
そんな話をコソコソと交わす僕とシュルト。
「いやぁ、見た目に騙されて手を出していたら、今ごろ私は大怪我してましたね」
「いや、そんなことはありません……ってか、お孫さんのことはすみません」
「わざわざ、お詫びしていただくことはありませんよ」
セバスさんは、何か勘違いしているようだが、とりあえずは助かったことに変わりはない。
とっとと謝ってしまう僕。
謝ったから、もう終わりにしてね。
「そう言えば、宰相って誰のこと?」
「えっ!?お前は既に会ってるって聞いてるぞ?」
「知らないよ。誰のこと」
「キグナス大公だよ」
「キグナス……ああ、レイクロフトさんかぁ」
「そう、そのレイ……って、バカぁぁぁぁぁぁ!!」
思い切り後頭部を叩かれる僕。
痛いなぁ〜。
「お前。一国の宰相に向かって何を言ってやがんだぁぁぁぉぉぁぁ!!」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
本当は今回でこの章は終わってたはずなのに……。
気長にお付き合い下さい。
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