第30話 愚者の再会
あれから数日が過ぎた。
僕は何故か代官の屋敷に逗留というか、監禁というか、とにかくその期間滞在をしていた。
「なぁ、シュルト。そろそろ僕も旅に出ようと思うんだが……」
「いやぁ、【愚者】殿、何を言っているのかね?まさか、この件を私だけに預けるつもりかな?」
「だっ、だってそうだろ?僕はこのとおり役になんて立たないよ」
すべて任せるつもりだったのだが、まさかエギルたちを見捨てて行くのかと釘を差されてしまった。
今では貴公子の態度に戻ってしまった【剣聖】様に付け入る隙はない。
正論で責められてこのザマだ。
実際、路地裏の首領が連れ去られてから、この数日は怒涛の展開であった。
エギルやその妹の【エイル】が、何とかって貴族の遺児だったり。
その貴族を暗殺したのが、不正を働いていた代官と路地裏の面々だったり。
代官と孤児院の院長が結託して、エイルを傀儡にして領地の専横を企んでいたり。
要は全てが首領、代官、孤児院長の三者による不正が元凶だったワケだ。
あの首領をもっと殴っておけば良かった。
そんなことを考えていると、代官の屋敷が騒がしくなる。
「どうしてこちらに……?」
「まさか、御身自らが……」
「早く、早く身なりを整えろ」
「家人もいないのにどうするんだよ」
何があったのかな?
僕がおそるおそる階段を降りてホールに向かうと、そこには見知った姿が。
「アルバートさん!」
僕を見つけると、躊躇なく飛びついて来たのは、
とっさに受け止めた彼女の、甘い香りが鼻をくすぐる。
それにしても……。
「久しぶりだね、リン。それにしても軽すぎるよ。しっかり食べてるの?」
僕がそう心配して声をかけると、彼女は僕の首元に抱きついたまま、可愛らしいほっぺを膨らませると抗議の声を上げる。
「もう、乙女に失礼ですよ」
「ハハハッ、ゴメン。元気だった?」
「ええ、おかげさまで。毎日、牛乳も欠かさずに飲んでますからね」
「おおっ、健康にいいからね。えらいえらい」
僕がそう言って頭を撫でてあげると、頬を赤くしてうつむくリンフィア。
ああ、可愛いなぁ。
「……い。……い。おい!いい加減にしろおお!!」
僕がリンフィアの姿を見てホッコリしていると、やにわにシュルトがぼくの後頭部を平手で叩く。
パッシーーーーーーーーーーーーーーン!!
さすがは剣聖。
スナップの効いたいい平手打ちだ。
「痛いなぁ……、何するんだよ」
「お前はどなたにそんな態度を取っているのか分かってるのか?」
「えっ!?…………リンにだけど?」
「だから、どなたを愛称呼びにしてるんだよ!この愚者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あっ、久しぶりのチンピラモードだ。
これは、大人しく従っていた方がいいかなぁ。
僕は痛む頭をさすりつつ、静かにリンフィアを地面に降ろすのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
おかしい。
本来ならこの話でひと区切りついていたはずが、書きたいことが次々と出てきてこのザマです。
もう少し、やり取りは続きます。
モチベーションに繋がりますので、★あるいはレビューでの評価をお願いします。
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