第27話 隠聖の潜入

 私の名前は【ペトラ・グルース】


 かつて勇者とともに魔王を討伐した【盗賊】の末裔であり、【隠のグルース】で【隠聖】の称号を得る立場だ。


 だが、私は【勇者】と共に旅はしていない。



 今代の勇者が四兄弟の末弟【ケイン】に決まったとき、【衛星サテッレス】の【六星セクス・ステラ】は割れた。


 

 剣術の実力は世界一。

 圧倒的な覇気を持つ【剣王】ラーズ。


 治癒の能力は世界一。

 圧倒的な慈悲を持つ【聖者】トリスタン。


 魔術の技量は聖者一。

 圧倒的な技術を持つ【勇者】ケイン。


 そして、あらゆる技能が兄弟たちに紙一重で及ばないものの、総合力では他の追従を許さないほどの圧倒的な強者【愚者】アルバート。



 私たち【聖】の称号を冠する者たちは、本来なら【勇者戦術ブレイブ・アルテース・ベルリー】の伝承者の下に集結すべきであるが、【愚者】が早々に伝承者候補から離脱したことで結束に狂いが生じたのだ。


 真に【勇者】たり得るものは誰か。

 それは幼い頃から交流があり、時には共に修練に励んだ私たちには明らかであった。


 あの【剣王】ラーズですら、【愚者】の下であれば剣を振るうのもやぶさかでないとまで言わしめた男を早々に見限ったのは、先代【勇者】の大きな過ちであったと言える。

 この混乱の世を見れば、本当の【愚者】とは誰だったのかよく分かろうと言うものだ。


 こうして、末弟のケインが【勇者】の称号を得たのだが、そこで【六星セクス・ステラ】の意見が割れたのだった。

 

 いったん伝承者が決まった以上、勇者と共に有るべしという者たちと、能力がある者が蔑ろにされて何が伝承者だと言う者たちであった。

  

 やがて、前者である【魔術師】【拳士】は【勇者】の旅に同行することに。

 また、【剣士】と【弓士】は不干渉の立場を取り、【治癒師】は【聖者】と共に人を癒やす道を選んだ。


 それぞれが己の信念に従って、道を選んだのだった。


 そして【盗賊】の私は、【剣王】ラーズの側に与することとなる。

 元から恋仲であったのもあるが、私はこの男の覇業を見届けたいと思ったのだった。

 


 勇者の家を出たラーズは、早々に魔族との戦いに身を投じた。

 その剛剣に、身体能力の高い魔族ですら一刀のもとに斬り捨てられた。

 やがて彼は、魔族によって支配されていたとある国を奪還するに至る。


 彼の勇名に集まってきた【剣王軍】を率いて、魔王領に最も近い国【カリブンクルス王国】から魔族を殲滅したのだった。


 魔王軍の先遣隊を率いていた魔王軍四天王のひとり【殲剣】の【アスラ】との一騎討ちは後世に残る伝説となった。


 ラーズがアスラの六本腕をことごとく切り落とし、最後に顔が3つある頭を切り飛ばした光景を私は忘れることはないだろう。


 やがて取り戻した国には人が戻り、人が集まった。  

 対魔族の最前線として、魔族に恨みを持つ者がやってきたのだった。


 こうして、尚武の国として【カリブンクルス王国】が再興されたのだ。

 そして、奪還の立役者であるラーズが人々に望まれて王位に就いたのも当然のことだった。


 やがて時がながれ、王国の復興も軌道に乗ったと思われたとき、とある噂が聞こえてきた。


 曰く、隣国でもある帝国に剣王の配下を自称している者が奴隷の売買に関与している。


 それを聞いた私は、あまりの怒りに表情を失うほどであった。

 ラーズは唯我独尊の男ではあるが、決して弱者を虐げる者ではない。


 ゆえに、その名が悪用されているのだと理解した。


 

 私はすぐに帝国に潜入すると、自称している男の周辺を探る。

 これが、首領ひとりの罪なのか、他にも誰かいるのかを調べる必要があったからだ。


 そうして、奴隷のひとりとして潜伏していたある日、私はひとりの男と出会う。


 その人物こそが、【愚者】アルバートであった。

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