第26話 愚者の諫言

 あ……ありのまま今、起こった事を話すぜ!


 い……いや……体験したというよりは、まったく理解を超えていたのだが……。


「僕は関係ないと事の成り行きを見守っていたら、死者を蘇生しろと強要された」


 な……何を言っているのか…………わからね〜と思うが…… 

 おれも……何を強要されたのか……わからなかった


 頭がどうにかなりそうだった……理不尽だとか不合理だとかそんな生ぬるいもんじゃあ断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。



「何、ボンヤリしてんだよ。早くしろよ」

「ねえねえ……シュルト、『死者への冒涜』って言葉を知ってる?」

「こんなクソ野郎、死んだからと言っても、いくら不敬を働いても心は傷まねえぞ 

「じゃあさ、『生命の軽視』って言葉は?」

「いいからやれって」

「痛っ」


 僕がいくら窘めても、いっこうに話を聞こうとしない幼馴染。

 ついには、剣の柄で頭を叩かれる。


 はいはい、やればいいんでしょ。

 やればさ。


 僕がしぶしぶ首領を蘇生させる。

 こんなに細切れにしちゃってさ、もっと癒やす方の身にもなれよとは思うが、口にはしない。

 チンピラモードのシュルトは怖いからね。


「うっ、うわあああああああああああああああ!!」


 あっ、今度はちゃんと悲鳴を上げたな。

 さすがにもう、夢だとは思い込めなくなったか。


 涙を流してうずくまる首領。


 そうだよね、シュルトの顔は怖いもんね。


「ああ゛っ!?何か考えてんのか?」


 シュルトが突然振り返ると僕を睨みつける。

 僕は慌てて首を振るとこれを否定する。


 いえ、全然。

 滅相もない。


 …………くそっ、やけに勘が鋭いな。


 すると、シュルトのドスの効いた声を聞いただけで首領が悲鳴を上げる。

 もう、完全に心が折れたな、こりゃあ。


「……チッ、おい、コイツを連れて行け」


 シュルトが部下たちにそう指示をすると、近衛騎士たちがシュルトに近づいていく。

 それにしても、こんな些事に近衛騎士団が動いているのはめずらしいな。


 そんな余計なことを考えていたら、首領の怒鳴り声で我に返る。


「そっ、そこまでだ!いいか、も、もしも俺になにかあれば、剣王が、あの国が黙っちゃいねえぞ!!」

「チッ!」


 腰が抜けて立てないようだが、威勢だけはいい首領。

 それに対し、シュルトは苦い顔だ。


 そりゃあそうだ。


 【剣王】といえば、ウチの長兄【ラーズ】のことを指す。

 【勇者戦術ブレイブ・アルテース・ベルリー】の伝承者候補にして、現在は魔王領に最も近い【カリブンクルス王国】の国王だ。

 この首領は、そんなウチの長兄が背後にいるのだと言い張るわけだ。


 魔族の侵攻を受けている今、帝国としては【カリブンクルス王国】とも戈を交えるのは回避したいところだろう。

 シュルトが苦い顔をするのもまあ、何となく分かる気もする。

 このままでは、首領の思うがままに進んでしまうかも知れない。


 だけど、その首領の言葉が真実でと知っている僕は、シュルトに助け船を出すことにしよう。


「そんなことを言ってるけど、どうなの【ペトラ】姐さん?」

「はぁっ!?ペトラがいるのか?」


 僕がそう言って振り返ると、結界の中にいた眼鏡姿の少女が首を振って答える。


「知らないわよ、こんな雑魚。それよりもバレてたのね」

「あんなにキレイに殺してたら、バレバレだよ」

「仕方ないじゃない。こんなに地味にしても手を出してくるバカがいるんだもん」


 そう言って髪に手をかけたかと思うと、次の瞬間には誰もが目を奪われるほどの美女がそこにいた。


「えええええええ!!」


 エギルや一緒に囚われていた少女たちが驚くのも無理はない。

 何しろ、骨格そのものが変わったのではないかと思うほど、まったく違う人物になるのだから。


 長く艶のある黒髪に、切れ長の眼差し、雪のように白い肌を持つ女性。

 それこそが、【衛星サテッレス】の【隠のグルース】において【隠聖】の称号を得た【ペトラ・グルース】であった。


「だって、私の肌に触れようとするんだもん。私の全てはあの人剣王のものなのにね」


 長兄の伴侶にして、カリブンクルス王国のナンバー2の立場にいる人物だった。 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


昨日は『無自覚〜』が難産で書けませんでした。

これから、今章のラストまで突っ走ります。


モチベーションに繋がりますので、★またはレビューでの評価をお願いいたします。

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