第25話 愚者の復原

 【蘇生レスレークティオー】の魔術は、死んで間もない者であれば、さしたる後遺症もなく蘇らせることができる。


 だが、それは単純に死ぬ寸前まで巻き戻すだけのことで、それまでに見ていた記憶は残ることになる。

 つまりは、首を斬られること、身体を寸断されること、炎に飲み込まれることといったは覚えているわけだ。  


 何故にこんなに長々と説明しているかと言われれば、その理由はこの現状にある。


「うわあああああああああああああああああ!」

「死ぬ〜!!」

「やめろおおおおおおお!!」

「ぎゃああああああ!!!」


 蘇らせたスラムの男たちが、片っ端から悲鳴を上げるのだ。


 …………うるさい。


 中にはうずくまってガタガタと震える者もいるが、ほとんどの者が心を折られてさしたる抵抗もなく、シュルトの部下に引き立てられて行く。


 それにしても、お前たちはどんだけ心が弱いんだよと、小一時間ほど説教をしたくなるほどだ。

 先ほどまで偉そうにふんぞり返っていた奴らが、幼い子供のように泣きじゃくる様は見ていて情けない。


 確かに死ぬ恐怖は最凶だろうが、せいぜいが僕の剣だぞと。

 お前ら試しにウチの長兄の剣で斬り殺されてみな、飛ぶぞ。


 あの濃厚な死が振り下ろされる感覚…………考えただけで震えてきた。



 そんなことを考えながら機械的に淡々と蘇生をしていたら、いつの間にか首領の番になっていたようだ。


 僕よりも頭ふたつ分程も大きな身体が、ムクリと起き上がる。

 おおっ、さすがは組織の長、なかなかの胆力だ。


 内心で僕がそう思っていると、首領がポツリと呟いた。


「夢か……」


 夢じゃねええええええ!

 胆力があるのではなく、単に現実逃避しただけかよと心の中でツッコミを入れる僕。

 さすがにこんな強面の人に、直接ツッコミなんて入れられませんよ。 


「おい!早く立て」


 と、思っていたら、隣に立っていたシュルトが、首領を蹴り上げる。

 う〜ん、だんだんと態度が悪くなってるぞ。

 そんなに嫌なことでもあったのかな?


 だが、蹴られた首領の方は黙っていない。

 一触即発の空気が流れる。


「なにしやがる!」

「いいから、聞かれたことにだけ答えろ」

「はあっ?テメェ何様のつもりだ!!」

「んああっ?」


 …………天下の【剣聖】様ですよ。


 僕がハラハラしながらふたりのやり取りを見つめていると、首領が状況を弁えずに見当違いな発言をする。


「この俺を誰だと思ってやがる!【剣士の末アルニラム】正統伝承者様だぞ!この剣で……ええっ!?」


 首領が手に持った剣を構えると、その先端が無くなっていることに気づく。

 ゴメン、それをやったのは僕だ……。

 なんか、せっかくカッコつけたのに締まらなくて申し訳ないと思いつつ、僕は隣のシュルトを見つめる。

 冷たい目で。


「何だよその目は……」

「え〜っ、だってあんなこと言ってるよ。【剣士の末アルニラム】って言ったら、そっちの実家の管轄だろ?」

「うぐっ……」

「誰のせいでこんなことになったのか……ねえ?」「はぁぁぁぁぁ!?」


 シュルトが必死で抗弁するが、首領がそう言っている以上、この件をまとめる者は決まったようなものだ。

 そもそも僕は、シュルトが来た時点で丸投げするつもりだったが、首領のひとことでそれが確定したと言っても過言ではない。


 何故なら、これが108派もある【六星セクス・ステラ】の傍系が起こしたものだと発覚したのだから。

 しかも、首領が言っていたのは【剣士の末アルニラム】。

 つまりは、かつての【剣士】の家から分かれた流派の者だと自供したのだ。

 本来、こんな人さらいやスラムの支配者といった下衆な行為はどんな流派でも認められていない。

 そんな禁忌を犯した者がいたなら、それを処すべき責任は、【衛星サテッレス】の一角、【剣のヘロン】にある。


 そして、僕の隣りにいるのは、【剣のヘロン】の正当伝承者。


「よっっっっ、しゃぁぁぁぁぁぁああ!!」

「……覚えてろよ」


 なんか三下みたいなセリフを言っているようだが聞こえな〜い。

 僕は、鼻歌交じりにことの流れを見物だ。


「テメェら、何ゴチャゴチャ言ってやがる!」


 すると、首領はそこらへんに落ちていた剣を取ると強気な発言だ。

 武器が手に入ったからね……。


「テメェ、どこのモンだ?」

「ああっ!?」


 シュルトがチンピラめいた口調になっている。

 よっぽど怒っているようだね。


「俺はテメェのツラなんて見たことねえって言ってんだよ」

「はぁぁぁぁぁ!?何を言ってやがる」


 首領は気づいてないみたいだね。

 せっかくだから、教えてあげよう。


「あっ、その人【剣聖】だから」

「チッ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「「「えええええええええええっ!!」」」

 

 人が親切に教えてあげただけなのに、シュルトからは舌打ちされ、エギルや囚われていた少女たちからは驚きの声が上がる。


「バッ……バカな……」

「バカはテメェだ!流派のトップの顔も知らねえって、本当に【剣士の末アルニラム】か?」

「そっ……それは……」


 首領が言い淀んでいる。


「ああ、騙っていただけなのか」」


 そう思い至った僕が思わずそう口にすると、それを聞いた首領は激昂する。 


「ハッキリ言うな。必死で言い訳を考えてるヤツに」

「だってあんなに偉そうに言ってたんだよ」

「言ってみたかったんだろ、【剣士の末アルニラム】ってよ」

 

 だが、そんなのはそっちのけで会話を交わす僕とシュルト。

 言外に「首領はウチとは関係ない」とまとめようとしている、

 シュルト、恐ろしい子!


「テメェら、バカにしやがって……。許さねえ、許さねえ!俺の……俺の剣は世界一ィィィィーーーー!!!」


 すると、首領は我慢の限界にきたのか、羞恥の極みに至ったのか、そう怒鳴ってシュルトに踊りかかる。

 首領は剣を振り下ろすだけなのに、シュルトは剣すら抜いていない。


「危ねえええ!!」


 そんなエギルの声が響くが、大丈夫だよ。


 シュルトは慌てることなく腰を落とすと、瞬速の剣を放つ。


「あ……あがっ……」


 終ぞ首領の剣はシュルトに届くことはなかった。

 首領は、あっという間にバラバラに切り結ばれてしまう。


「思い上がるな下衆……。俺なんてせいぜい世界で3番目の剣士だぞ」


 そう言って剣を鞘に納めるシュルト。


「お見事……【桜花八閃】かぁ、きれいな剣筋だよね」

「チッ、見えてたのかよ」


 せっかく見事な剣だと褒めたのに、舌打ちされるとは……解せぬ。

 

「ああ、そうだ【愚者】……」

「ん?」


 すると、シュルトが思いついたように話す。

 

「よし、コイツをまた蘇生しろ」



 ええええええええええええええええええええっ!?


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


モチベーションにつながりますので、レビューあるいは★での評価をお願いします。


楽しくなってきたので、このまま章のラストまで行きたいなと思います。

明日は『紅蓮〜』を更新しますので、明後日にこちらは更新予定です。





『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』


『紅蓮の氷雪魔術師』


『幸福の王子と竜の姫〜転生したら領民がヒャッハーしてました〜』


 他の3作品もよろしくお願いします。


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