第23話 愚者の後悔

「えっと……」


 僕は、結界に守られている女性たちに振り返ると、まことに遺憾ながら現状を説明する。


「どうやら、倒しちゃった……みたい?」


 とりあえず、結界から離れてもらえればいいやって考えていたんだけど……。

 いつの間にかみんなやられてるとはこれいかに?


 う〜ん、何がどうなっているのやらよく分からないな……。


 すると、結界の中のメガネ姿の女性が恐る恐る手を挙げる


 はい、そこの人。


 僕がゆっくりうなずいて発言を促すと、彼女はこの状況における問題点を指摘する。


「あの……、誰もいないと貴方の正当性を認める手段が無くなるのでは?」

「えっ?」

「もちろん、私たちは貴方に助けられたと証言するつもりですが。私たちを誘拐してきた当人が死んでしまっていたら、事実関係を明らかにできないのではないかと……」

「マジで?」

「マジです。まさか、全滅させるとは思いませんでした……」

「僕もそう思う。まさか、全滅させられるとは思わなかったよ……。どうしよう……」


 僕が今後のことについて悩んでいると、屋敷の外が騒がしくなってきた。

 まだ、生き残りがいたのか?

 それなら、助かるなぁ……。


 そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。


「こっちだ!」


 ガヤガヤと大勢の者たちがやって来る気配。

 だけど、その先頭にはよく見知った顔があった。


「あれっ?エギル?」

「アル!ひとりで助けに行くなんて無茶だろう……って……ええええええええええええっ!!!!」


 そりゃあそうだろう。

 一面の死体を見れば誰でもそうなるはずだ。


「え〜っと、これには理由があって……」


 何だろうこの悪いことをしてしまったような気持ちは……。

 僕は冷や汗をかきながら、慌てて理由を説明しようとすると、エギルの後ろにいたフード姿の人部に思い切り頭を殴られる。


「痛ええええええええ!!」

「痛えですむか!この【愚者】野郎が!!」


 あれっ?

 この声は? 


 僕が頭を抑えながら、殴りつけた人物の顔を覗き込むと、そこには懐かしい顔が……。


「シュルト!久しぶり!」

「久しぶりじゃねえええええええ!お前のせいで、お前のせいで……」


 彼はかつて初代勇者とともに魔王を討伐した者たち【衛星サテッレス】の末裔、【剣のヘロン】の嫡男にして【剣聖】の称号を持つ、【シュルト・フォン・ヘロン】であった。


 彼は久しぶりに僕と出会った感動に言葉を詰まらせているのであろう。

 顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。


「お兄ちゃん!」

「エイル!」

「お兄ちゃん、ケガは?大丈夫なの?」

「ああ、それよりお前も、そんなに動いて大丈夫なのか?」

「うん、あそこにいるお兄ちゃんが……」

「ああっ、良かった!良かったぁぁぁぁ!!」


 うんうん、感動的な再開だね。

 僕が満足そうにうなずいていると、またシュルトに殴られた。


 痛い。


「おい」

「……ん?」

「今度は何をしやがった?」 

「えっ?別に何も。君を連れてきたエギルの妹を助けに来ただけだよ」

「それで、この惨劇かよ」

「惨劇って酷いなぁ。いつの間にかこうなっていただけでさ……」

「お前なぁ、その無自覚にやらかす癖を何とかしろよ……。おかげで俺は皇女殿下や宰相に……」


 最後の方はよく聞き取れなかったが、何となく泣き言のようだ。

 苦労してるんだろうな……。


 シュルトが僕の頭を脇に抱えて、こめかみのあたりを拳でグリグリと押し付けてくる。

 地味に痛いから辞めてくれないからなぁ……。



「さてと……」


 しばらくして、シュルトは僕を地味な攻撃から開放すると、一面に転がる死体の山を見ながら一言。


「よし、蘇生しろ」

「へ?」

「生き返らせろ。出来るだろ?」

「全員?」

「もちろん」


 ええええええええええええええええええええっ!?




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


モチベーションにつながりますので、レビューあるいは★での評価をお願いします。



『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』


『紅蓮の氷雪魔術師』


『幸福の王子と竜の姫〜転生したら領民がヒャッハーしてました〜』


『自己評価の低い最強』


今日は4作品一挙更新していますので、他の作品も一読いただければ幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る