第20話 剣聖の驚嘆

 私の名前は【シュルト・フォン・ヘロン】


 かつて勇者とともに魔王を討伐した【衛星サテッレス】の一、【剣のヘロン】の嫡男にして、帝国の【近衛騎士団長】を務めている。


 現在、【勇者】とともに旅をしている【剣鬼】シバは私の実弟だ。


 私は帝国より【剣聖】という過大な評価をもらっているが、この称号を誇るつもりはない。

 なせなら、私よりも遥かに剣に長けた者たちを知っているからだ。


 そんな規格外のひとりは、言わずとしれた【剣王】こと【ライガ】

 彼の剣は、天を裂き、地を断つ。

 まさに【剛の剣】の極地。


 そしてもうひとりが、何故か【愚者】と呼ばれている【アルバート】 

 彼の剣は、風に舞い、海に凪ぐ。

 まさに【柔の剣】の極地。


 私はかつてこの二人の打ち合いを見て愕然とした。


 一撃一撃が必殺の剣を、柳の如く受け流す。

 幾千幾万の幻惑の剣を、炎の如く弾き飛ばす。


 それはまさに、至高の戦いであった。

 このときは、剣の性能の差でアルバートが不覚を取ったが、どちらが勝利してもおかしくないほどの紙一重の戦いであった。


 あの対決を見て、自身の剣を誇ることなど出来ようか。


 私が今代の勇者にお供しなかったのは、もう心をポキポキ折られたからに他ならない。


 自信?

 私はしばらく会っていない気がするな。


 しかし、弟があれを見ていなくて良かったと心から思う自分がいる。

 弟も同じようになっていたら、やはり【戦術アルテース・ベルリー】の正統継承者として私が旅に出なくてはならなかったであろうから。



 そんな私に先日、呼び出しがあった。

 しかも、宰相の執務室だ。


 帝国の中枢とも呼ばれる宰相府のさらに重要な場所であるそこへは、我々近衛騎士団員であっても簡単には入室出来ないような場所だ。

 皇族や上位貴族たちが国の行く末を語り合う場所。


 そんなところに、一介の騎士である私が何故?


 ゆえに、私は嫌な予感を抱きながら出頭に応じたのだった。


 何か無作法でもしてしまったか?

 もしや、部下たちになにか問題でも?


 そんなろくでもない考えばかりが、私自身の頭の中を駆け巡っていた。


「なっ?」


 私がこの上ないほどの緊張感に包まれて、宰相の執務室に出頭すれば、そこにおられたのは、【冷刃】との異名を持つ辣腕宰相の【キグナス大公】と、次期女帝との呼び声が高い【帝国の玉姫ぎょくき】であらせられる【リンフィア】第一皇女殿下であった。


「ああ、ヘロン団長、よく来てくれた。今日は折り入って頼みたいことがあってね」

「はっ!」


 一瞬、驚いた私であったが、すぐに片膝をついて臣従の礼をとる。

 なぜ、ここにリンフィア皇女殿下が……。

 そんな思いもあるが、余計な考えは振り払って私は宰相の言葉に耳を傾ける。


「ああ、そんなに畏まらなくてもいいよ。実は、とある人物について、君がよく知っていると聞いてね」

「伯父様。そこからは私が……」


 すると、リンフィア皇女殿下の鈴の音のような澄んだ声が、宰相の言葉を制止する。


「ヘロン卿。お伺いしたいのは、ある人物のことです。その方の人となりを教えていただけませんか?」

「承知しました。私の知る者でしたら何なりと」


 いったい誰のことかと首をひねる私。


 今は隠居している父のことだろうか?

 それとも弟のことだろうか?


「そのお方は……」

  

 リンフィア皇女殿下が、モジモジと言いにくそうにしながらも、ようやくその人物の名を告げる。


「…………その方は【勇者戦術ブレイブ・アルテース・ベルリー】伝承候補者であった【アルバート】様です」


 ある……?ある…ばーと?あるばーと?アルバート!


 アァァァァァァァァルバァァァァアト!!


 【愚者】お前のことかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 お前のせいで、俺はこんなに緊張させられてるのかぁ!!!


 俺は心の中で、青い髪をした冴えない男に罵詈雑言を投げつけるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


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一斉に更新したら、


『幸福の王子と竜の姫〜転生したら領民がヒャッハーしてました〜』


『自己評価の低い最強』


の2作品の反響があったので、とりあえずしばらくはこの2作品を交互に更新していけたらと思います。


あっ、もちろん『無自覚〜』は毎日更新頑張りますよ。

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