第17話 愚者の策略
目が覚めると、双頭の犬の大口が目の前に迫っていた。
おおう、危ねえ!
「ちょっ、まっ、ステイ、ステイ!」
慌てて右手を前に出して、犬を制止する。
すると犬は電気が走ったかのように、ビクリと身体を強張らせると、二つの頭を床につけてひれ伏す。
良かった無駄に戦わずに済んだ。
昔から僕は動物たちには好かれていて、みんな僕が声をかけると大人しくなる。
何故か汗をダラダラかいて、プルプルと震える子が多いのは気になるけど、姿を見かけるだけで逃げ出される長兄に比べれば、雲泥の差だ。
以前、長兄に僕が動物に好かれることを自慢したら、ため息をつかれたのだが……。
「動物は本能で死を覚悟するだけだ。俺の場合はまだ逃げられると思う余地があるのだろう」
まるで僕の方が怖いみたいな言葉に、納得がいかなかったことを思い出し、僕は苦笑する。
「そんなことないよね。こんなに大人しくなってるんだもん」
「キャイン!」
僕が双頭の犬を優しく撫でると、犬はひと鳴きするとそのまま寝てしまう。
撫でるだけで眠らせるなんて、まさに僕のゴッドハンドが為せる技だね。
それにしても、白目を剥いて寝るなんて、ずいぶんと変な寝方をする犬だな。
「さてと……」
僕は寝てしまった犬は放置して、辺りを見回しつつ、検索の魔術を展開する。
どうやら、監視から外れたようだ。
犬の餌にしたとでも思われているのだろう。
この街に入って早々、僕は誰かに見られていることは分かっていた。
僕がエギルを宿屋に引き込んだときにも、同じ視線を感じていた。
おそらくは、偵察を行う者なのだろう。
外から入って来た部外者を見張り、獲物と見定めたら付け狙うための存在。
仮にこのまま僕がエギルの妹を探すために動いても、敵側に情報が筒抜けになるおそれがあった。
「あ〜っ、やっぱり死ぬしかないかなぁ……」
そこで僕は、監視者から逃れるために
死んでもたいして時間が経っていない者ならば、僕は【
それは自分自身に対しても同様だ。
本来なら、死んだ自分自身に【
何せ魔術をかける本人が
ところが僕には、それを可能にする方法がある。
それが魔術の時限式発動だ。
これは、魔術を発動させる時間を自在に遅らせることが出来るというものである。
これは、戦闘狂の長兄との模擬戦から逃げるために、苦労して編み出した僕だけの技だ。
さすがに、長兄も僕が死んでしまったとなれば、蘇らせるために次兄の協力が必要となる。
だが、そこで次兄に蘇らせられると、その隣で待っていた長兄に捕まるという地獄のループが待っているのだ。
そこで僕が策を弄したのが、長兄が次兄を呼びに行っている間に、勝手に蘇って逃げるという技だった。
あらかじめ魔術を時限式にしておけば、死んでしまっても、事前に決めた時間がやって来れば、魔術が発動して蘇るという仕組みだ。
おかげで長兄からは『卑怯者』と罵られ、次兄からは『敵から逃げるために仮死状態になる虫のようだ』と笑われ、末弟からは『才能の無駄遣い』と呆れられたものだ。
でもさ、実際にこうして役立っているのだから、決してバカにできない技だとは思うんだ。
誰にも評価されていないからといって、悔しい訳ではないよ……決して。
まあ、とりあえず、自由の身となった僕は、エギルの妹を探すために、路地裏の探索に臨むのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
お読みいただいてありがとうございます。
出来れば★の評価をいただけると幸いです。
拙作の
『無自覚英雄記〜知らずに教えを受けていた師匠らは興国の英雄たちでした〜』
『紅蓮の氷雪魔術師』
の2作品もよろしくお願いします。
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