第13話 愚者の奉仕
「くうううっ、やっぱり風呂上がりの一杯はこれだなぁ〜」
「牛乳をそこまで美味そうに飲む男は、そうそういないよ」
「いやぁ、風呂上がりだからねえ」
「アタシは、牛乳よりも酒を頼んでもらいたいんだがね」
「そんな、酒なんて飲んだら倒れちゃうよ、僕」
酒にすごく弱いんだから。
ここは、宿屋に併設された食堂。
僕は宿屋の女将さんと、そんな会話を繰り広げていた。
大きな共同風呂があるこの宿屋はかつては、とある孤児院だったとか。
街の外れに新しい孤児院が出来たために、ここは払下げとなり、元冒険者だった女将さんが買い取って宿屋にしたとのこと。
「いやぁ、エギルには感謝しっぱなしですよ。こんないい宿屋を紹介してくれるなんて」
「はん、あいつもいろいろあんのは分かるけどさ、ホントは大人に頼るべきなんだよ……」
何か言いたげな女将さんの様子に、このまま話を聞いていてもいいのかと逡巡する僕。
「きゃっ!」
すると、カウンターの奥で、両目に包帯を巻いた少女が蹲っている。
壁伝いに歩いて来たようだが、躓いてしまったようだ。
床に倒れた拍子に、どこか切ったようで血が出ている。
「【レベッカ】!」
するとそれに気づいた女将さんが、慌てて少女に駆け寄る。
「どうして出てきたんだい!危ないじゃないか!ほらこんなに怪我をして……」
「ごめんなさい。でも、裏口に……」
そんな言い合いをするふたり。
女将さんは、少女の腕のあたりを綺麗な布巾で押さえて、止血しようとしている。
裏口?
裏口に誰かいるってことなのかな?
ん?
この感覚はエギル?
僕はこの街で知り合った少年の雰囲気を感じ取る。
「女将さん、エギルみたいだ。僕が出てもいい?」
「はぁっ?何であんた、そんなことが分かるんだい?」
「ん~~、何となく?」
「おかしな男だね」
「へへへっ」
「まぁ、いいや。アタシは娘のことで手がいっぱいだから、相手しとくれ」
どうやら、転んでしまった少女は、女将さんの娘のようだ。
僕は女将さんの了承を得たので、カウンターの裏に回り込むと裏口に向う。
そのついでに、怪我をしている少女に無詠唱で回復魔術をかける。
「【完全治癒(ペルフェクティオ・サナーレ)】おれはおまけ。お大事に」
「えっ?」
背後から驚きの声が聞こえるが、こんなことで驚かれると、ちょっと恥ずかしい。
「けっ、怪我が!」
「お母さん、目が目が見える……」
「えっ、ええ!?……ホント、ホントだ。あなたの綺麗な瞳が……。ルビーのような瞳がもとに戻ってるよ……」
「ああっ、神様……」
「奇蹟が……ありがとう。ありがとう」
どうやら、無事に完治させることが出来たようだ。
それにしても、目を怪我するなんて今まで大変だったろうに。
「なっ!?」
そんなことを考えながら、裏口のドアを開けた僕は、そこでボロ雑巾のようになって転がっているエギルを見つけるのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
この少女が、前話で瞳をくり抜かれた少女だったりします。
鬱展開は即終了が私の信念です。
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