第9話 悪童の失敗
8話と9話を入れ替えています。
お手数ですが、そちらもご覧下さい。
なお、コチラも多少手直ししていますので、ご了承下さい。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
オレの名は【エギル】
家名は捨てた。
オレは、この雑多な街の片隅で、まだ年端もいかない妹とともに、ひっそりと生きている。
魔王軍の襲撃により、両親や住んでいた家を失い、裸一貫で放り出された
親と別れた際に持っていたいくらかの財産は、心無い大人たちに騙されて奪われた。
その後は妹とともに孤児院に押し込められたが、院長が幼女にまで手を出そうとする鬼畜ロリ野郎だと気づいて、妹を連れて飛び出した。
こうして、オレと妹は街の裏路地で雨露を凌ぐ生活を送るようになったのだ。
オレと妹だけの生活。
そこでは、誰に騙されることも、誰に襲われそうになることもない。
…………そう思っていた。
だが、路地裏には路地裏のルールがあり、そこでも力ある者がそうでない者を支配する構図は変わりなかった。
この世界は弱肉強食。
力なき者は、力ある者に搾取され続ける運命。
オレはいつか、こんな腐りきった生活から抜け出てみせる。
そんなことを思い続けながら、オレは今日の飯の種を探しに行く。
オレのいる【トランシトゥス】の街は、大陸交易路の要所で、様々な人々が行き交っている。
人が多いということは、何かと小銭を得るチャンスは多い。
例えば外から来た者に街を案内する仕事とか、ちょっとした小間使いとして雑用をこなすとか。
だが、今日はツキが無かったようだ。
誰も彼も財布の紐が固いヤツばかりで、こんなガキに付き合うようなヤツはいなかった。
「くそっ、擦るしかねえか」
オレは渋々ながら、罪なき人の財布を擦ることを心に決める。
本当であれば、こんな犯罪行為は行いたくない。
だが、毎日の上納金を納められなければ、オレと妹は路地裏からも追い出される。
劣悪な環境で病をこじらせた妹が、屋根のある場所から追い出されれば、体調が悪化することは必至。
オレは、これから被害を受けるであろう人物に内心では謝罪しつつ、獲物を探す。
来た来た。
そこにいたのは、青いくせ毛の優男。
見た目的にもパッとせず、周囲をキョロキョロと覗う姿は、いかにも田舎者といった格好だ。
悪いが、オレの獲物になってもらうぜ。
そう決心したオレは、音もなく優男に近づいていく。
そして――――。
「あっ、ゴメンよ」
オレは男に軽くぶつかった瞬間に、男の腰に下げられた財布に手を伸ばす。
路地裏でスリのジジイから教わったとおりの流れるような手順だ。
オレは成功を確信する。
――――が。
「えっ?」
気がつくとオレは、大通りの真ん中で大の字になって青空を見上げていた。
何があった……。
「大丈夫かい?」
すると、優男が心配そうに俺を見下ろしていた。
「突然、ぶつかってくるから驚いたよ」
そう言って笑う男。
「大丈夫かい?」
何だよコイツ?
コイツは今、何かしたのか?
何をされたのかが理解できないオレは、笑顔で手を差し出すこの男に恐怖する。
殴り倒されたとか、捕まえられたとかならまだ分かるが、気づいたら空を見上げていたなんて、よっぽどのことじゃないとあり得ない。
もしや、一見冴えないような顔をしているが、コイツは実力者なのか?
もしかして、ヤベェ奴に手を出してしまったんじゃないか……。
オレは自分の判断を後悔するのであった。
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