第4話 愚者の動揺
少女を連れて冒険者ギルドに戻った僕は、周囲からもみくちゃにされていた。
「オメー、すげえじゃねえか!」
「まさか、完遂するとは……」
「バカなぁぁぁぁぁぁぁ!」
それぞれの思惑があったのだろう、称賛の声ばかりではなく、中には怨嗟の声も含まれていた。
依頼達成の確認のため、僕と少女は別室に通されると、ここに至るまでの詳細を聴取されていた。
僕が、少女を救助する際に盗賊団を壊滅させたという話をすると、ギルドの係員さんに話を盛るなと怒られた。
解せぬ。
本当の話なのになぁと頬をかきながら、信じてもらうためには何と説明しようかと思案する。
すると、隣に座っていた少女が顔を真っ赤にして抗議する。
「どうして貴方は頭から嘘だと決めつけるのですか?」
「いや、ですが相手はあの【餓狼】ですし……」「どうしてアルバート様が倒したとは考えられないのですか」
「ハハハ、いや失礼しました。しかし、いくら【
係員さんがそう言いかけたところで、少女は目に涙を浮かべる。
「どうしてそんな根も葉もない噂話を信じるのですか!」
少女の涙ながらの訴えに、係員さんが言葉を詰まらせる。
ここまで少女に言わせては、男としての名折れだな。
そこで僕は、ひとつの提案をすることにした。
「ええと、盗賊団の討伐に関してはどうでもいいです。後日、確認して下さい。まずは、一刻も早く、この子の保護者に早く連絡をして下さい」
僕が係員さんの背後で話しを聞いていた、例の巨乳の受付嬢にそう告げる。
この係員さんは、さっきから判断に悩むとチラチラと受付嬢の様子を見ていた。
どっちが立場が上なのかは一目瞭然だ。
手っ取り早く、話を進めよう。
「おい、誰に話をして……」
「分かりました。すぐに手筈を取らせていただきます」
係員さんの言葉をさえぎる形で、受付嬢が了承する。
「とりあえず、ここまでかな。少し向こうで休もうか」
「……うん」
僕は涙を拭う少女の頭を撫でると、そのまま部屋を出ることにする。
「おい【愚者】!話は終わってないぞ!」
係員さんが慌ててそう呼びかけてくるが、僕があなたと話すことはない。
先入観が邪魔をしてまともに話ができない人に何を話せばいいのか。
受付嬢が動いたことだし、後からギルドの上の方がやってくるだろう。
「知ってるかい?ギルドには酒場も併設されてるみたいなんだ。ちょっと大人の気分を味わって見ないかい?」
僕が係員さんを無視して、少女にそう話しかける。
すると、少女はくすりと微笑む。
どうやら、センスのない誘い文句を笑ってもらえたようだ。
「はい、エスコートをお願いできますか?」
「それでは、お嬢様参りましょうか」
「はい」
僕が差し出した肘に、しがみつく少女。
もっと大きくならないと様にならないね。
そんな僕と少女がギルド併設の酒場でしばらくの間、時間を潰していると、やにわに周囲が騒がしくなる。
「姫っ!姫ええええ!ご無事ですか!?」
そんな中、やけに身なりの整った、一見して貴族と分かる紳士が、お供の者すら付けずに冒険者ギルドに飛び込んできた。
「叔父様!」
少女は紳士にそう呼びかけると、椅子から立ち上がって抱き合った。
うんうん、良かった。
叔父さんが迎えに来てくれたんだね。
それにしても『姫』だなんて。
確かにこの年頃の女の子は、どこの家でもお姫様扱いされるだろうけど、さすがに人前では恥ずかしいんじゃないかな?
そんなことをボンヤリ考えていたら、感動の再会が終わったようだ。
紳士が少女を連れて僕の方にやってくる。
「姫から話を聞いた。本当に世話になった」
「いえ。無事に連れて帰れて良かったです」
「ところで、失礼だが君は【
「ええ【愚者】の二つ名を戴いています」
僕が自嘲気味にそう伝える。
4兄弟の中で唯一の無能。
これまで僕はそんな扱いをされることに慣れていた。
だから、今回も蔑まれるのだろうと思ったのだが、紳士は歓喜の声をあげると両手で僕の手を握ったのだった。
「そうだったのか。本当に今回は幸運だったのだな。君が受けてくれたなんて……」
「えっ?」
普段の対応と明らかに異なるために、僕は面食らう。
「アルバート様をご存知なのですか?」
少女がそう尋ねると、紳士は満面の笑みでうなずいて答える。
「私は【聖者】の【トライン】殿と多少の縁があってね。彼がよく言っていたんだよ。『兄弟で最強はアルバートだ』『義弟のアルバートが本気になれば、こんな世の中はすぐに良くなる』ってね」
「まぁ、それは本当のことですわね」
「ああ、【聖者】の言葉は正しかった訳だね」
この叔父と姪の褒め殺しに、僕は顔を赤くする。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
あと一話で終わるといったな。
あれは嘘だ。
もうちょっとだけ続くのじゃ。
まさか、また書ききれないとは思いませんでした。
次回、本当の最終話となります。
ヘ ︵フ
( ・ω・)
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