第3話-2 隣のピュートーン
意味が分からない。瀬里奈は彼らまで巻き込むつもりなのか。
「なに言っているんだよ!?」
思わず立ち上がり声を荒げてしまった。だが、彼女は得意げな顔をしている。
「何かダメなことある?みんなで動いた方が効率いいじゃん」
呆気ない一言で僕は沈められてしまう。
頭を抱えながら椅子にぐったりと座り込んでいると、レイアが口を開いた。
「あれだけ仲間を殺されておいて、おずおずと見過ごす訳にはいきません。人間に害を与える怪物はすべて退治しなければ」
反論することが出来ない。立場も言い分も理解できる。だけども……。
「な、みんなこう言ってるんだ。俺も一緒に手伝うからさ」
零士も珍しく前向きな姿勢だ。
みんなの想いを否定したくはない、けれど危険な目にも遭ってほしくない。
ハッキリ断ろうと立ち上がった瞬間、モーニングセットが運ばれてきた。
店員の驚いた顔を見て、自分の行動に恥ずかしさを覚える。そのまま席に戻り味のしないトーストを口に運んだ。
みんなが襲われることがあったらどうするのか、僕一人で守り切ることは出来るのだろうか。
「まぁ難しいだろうねー」
脳内に響くアトラスの声に、顔をしかめる。
「なんだ布令、調子でも悪いのか?」
気づけば周りは食事を終えており、自分だけハムエッグが残っている。
「それでは、お先に失礼します」
「ちょ……」
言いかけると「支払いなら俺がやっとくから」と、零士がテーブルに金をそっと置いた。
「そういうこと、だろ?」
よほど貧乏だと思われているのか、そんなにかっこつけて金を置かれても。
残ったハムエッグを掻きこみ、コーヒーで流し込む。ふと隣を見ると、瀬里奈が申し訳なさそうにしている。まさか……。
「……100円足りないし」
結局、彼女の分まで僕が多く払うことになった。
それにしても、彼女がここまで熱心に協力してくれる理由が分からない。先日のヒュドラとの戦いでも、危うく死にかけたというのにどうして。が、それを聞けるはずもなく、当たり障りのないことを呟いた。
「で、今からどうするの?零士とレイアはどこ行ったか分からないし」
「私たちはいつも通りかな、二人は二人の行くところがあると思うし」
* *
零士は瀬里奈から聞いた、革命派の裏看板について気になっていた。
情報屋IBEX。彼らは革命派に大きな影響を及ぼしており、ここ最近は秘密裏に進んでいるらしい新たな生物兵器にも関わっているらしい。
そんな話を小耳に挟んでからというもの、一人で探りを入れてきたが正体は掴めないままだった。
5年前の大規模テロ。布令や瀬里奈が所属していた日本ハウスホールディングスの隊員育成所襲撃に始まり、掘須街にある関連施設も被害を受けた。
明日羅や瀬里奈たちの活躍で鎮圧されたものの、残された爪痕は大きく、誘拐された代表取締役の日野山吹は現在も行方不明のままである。
ただ、それ以降革命派は不自然なまでに静かで、時折パーティを襲撃したというニュースはあるが、民間人への危害についてはピタリと止んでいた。
しかし、突如として「怪物」が出現した。あれが噂の新兵器なのだろうか。いとも簡単に、最高峰の戦力と言っても差し支えない未来建設小隊を蹴散らした。
そして続いて現れた謎の巨人。あれはもっと分からない。
不安な日々を過ごす中で、瀬里奈から怪物探しのお誘いと、IBEXが何かを知っているかもしれないという情報を得た。
零士は周囲を確認しつつ、壊れた柵の隙間から第8特別区に入る。一見すると静かなこの街の中にも、革命派は確実に根を張っていた。
排除するべきだとは思わない。温床となりつつも、ここには民間人の生活も広がっている。
このような分断が起きるのは仕方ないと、心の中では納得していた。特別区は『第8』からも連想できる通り、全国に多く存在する。ギルド制度を巡り、政府と革命派は衝突を繰り返してきたが、そもそもの原因はダンジョン化と変異体である。
だが、裏看板はここでしか聞いたことがなかった。ほとんどすべての情報がデータでやり取りされるこの時代に、わざわざ掲示板を使う習慣が残っている。
やっとの思いで辿り着くと、想像以上にごちゃごちゃとした大きな看板が目に入った。どれも有益な情報とは言えず、ただ日本政府を罵るだけのポスターまで貼ってある。
これが今の日本の現実。
結局、ここの民間人も政府を目の敵にし、責任を押し付けている。他に敵はいるだろうに。
「人間は人間以外の敵を作らない。相手を知る努力もせず、目に映る敵にしか見えてないんだ。みんなで協力し合えばいいのに」
独り言が漏れた。小さい頃、地球に侵攻してきたエイリアンを倒すために世界中が一致団結する映画を観たが、現実はそう上手くいかないようだ。
期待外れだったかと立ち去ろうとすると、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。フードを深く被っていて顔はよく見えない。
フードの男は無言で横を通り過ぎ、看板に何かを貼り付けて立ち去っていく。そこには『街外れの廃工場にてピュートーン出現か』という見出しと、IBEXのスタンプ。
ハッとなり、それを写真に撮って全体グル―プに共有すると、急いで後を追いかける。
「今日こそ尻尾を掴んでやるからな」
静かな街に乾いた革靴の音が響いた。
【あいさつ文】
お世話になっております。やまだしんじです。
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