9-5

 金庫でのことが気になり、久々の王都を楽しむことが出来ず早々にダンジョンの住処にしている小部屋に戻ってなお、私はアベリル様との結婚についてこのまま進めていいのか思い悩んでいます。

 革命が起きたほうがこの国の為ともいえますので、盟約を果たし、今の王族をこのまま生き永らえさせるのは間違っているように思えて仕方がないのです。


「やっぱり結婚はやめたほうがいいのかもしれませんわ」

「は!?」

「さようでございますか」

「まてまて!そんなの急にどうして言い出した!?」

「実は金庫で・・・」


 私は金庫であったことを説明しましたが、サーヴは驚きはしたものの特に私の意見に反対する様子はないようですが、ロルフは自分の結婚のことも関わっているせいか、青い顔をしております。


「気にする必要ないって、お嬢様のお兄様が何とかしてくれるって」

「けれど、お兄様はすでに王籍を外れた身でいらっしゃいますもの」

「だからっそのお兄様が革命を起こすリーダーになればいいじゃないか」

「それはクーデターというのではないでしょうか?」

「この際どっちでもいいって!」

「重要だと思いますけれど・・・、まあいいですわ。お兄様がクーデターを起こしてまともな政治を執り行うのでしたら、私に否やはございませんけれども、そんなにうまくいくものなのでしょうか?革命・クーデターというものは根回しや主導力、ようするにカリスマが必要でございましょう?マリオンお兄様にはカリスマ性はございますけれども、現時点ではただの冒険者ですわ、クーデターの主導者になるには求心力が足りないのではないでしょうか?」

「そのことなのですが、吸血鬼の魔王の復活により活発になった魔物の討伐に赴いているとおっしゃっておりましたし、そこで名を上げるつもりなのではないでしょうか?」


 なるほど、冒険者として名を上げればそれだけ求心力は増していくというものでございますものね。

 マリオンお兄様がクーデターを起こせば被害は最小限、私の斬首もないに違いありませんしそうであればよいのですけれども、あの盟約によれば私の子供のは闇の神に取られてしまうのですわよね。それは母親としては少し寂しい気がいたしますわ。


「マリオンお兄様の活躍に期待したとしても、私とアベリル様の子供が闇の神とやらに奪われてしまうのでは、少し寂しく思えてしまいますわ」

「落ち着こうお嬢様。その闇の神ってのは多分魔族の真祖様のことだと思うんだよ。俺は会ったことないけどそう悪い人じゃないって聞くから大丈夫だって」

「そうなのですか?」

「そうなんだよ。だから結婚をやめるとかいうのはなしにしよう、な!」


 必死の様子のロルフに若干暑苦しい・・・いえ、熱心さに気後れしてしまいましたけれど、それでしたら確かに結婚して子供を取られても会わせていただけるかもしれませんわね。


「お嬢様、お嬢様自体はこの結婚についてどうお考えなのでしょうか?私はお嬢様がご納得なさることでしたら危険がない限り反対するつもりは一切ございません」

「そうですわね、政略結婚をするか、このまま引きこもって生涯を終えると思っておりましたので、特に何とも思っておりませんわ。スミレの御方との結婚でしたら、私の知らない人と結婚するわけではありませんから、他国に嫁がされるよりもよっぽどいいのだと思いますわ」

「オヤジが今必死で領地内を整備してるだろうし、お嬢様が結婚しても周囲の環境が悪くなるってことはないと思うぞ。そもそも、怠惰と堕落の権化だぞ?ああしろこうしろなんてことは言われないだろう。いうような奴はオヤジがまとめて首を物理的に飛ばしたと思う」

「まあ・・・」


 随分過激なことをなさるのですね。けれども、魔王でいらっしゃるのですから、そういうものなのかもしれませんわね。

 まったりとした生活が続くのでしたらそれはそれでいいのですけれども、私としては前回の、夢の泣かせの生き方が怠惰なものでしたから、今回は少し勉強や魔法の修練に精を出したいと思っておりますので、意見の相違が出てしまうかもしれませんわね。

 そうなると夫婦の中は冷え切ってしまうと聞いておりますし、永遠の命を頂いて結婚するのにそのような事になってしまったら悲惨ですわ。


「結婚するのは11年後でございますけれども、それまでの間に私とアベリル様の間で意見の相違が出てしまって、結婚自体がなくなってしまうかもしれませんわ。だって怠惰に過ごした夢の中の人生を変えたいと思って今こうしているのですから、怠惰の権化のアベリル様とは合わないかもしれませんわ」

「大丈夫だって、あのオヤジがお嬢様のすることに口を出すような面倒な真似をするわけないって」

「そうでしょうか?私は魔法の練習もしたいですし何でしたら、冒険者にはなれなくてもダンジョンを旅したいとも思っておりますのよ。そのような淑やかさに欠ける嫁を貰いたいと思いますでしょうか?」

「思う。思うから結婚をやめたいとか考えるのはやめてくれ」


 ロルフはいったい何をこんなに必死になっているのでしょうか?自分の結婚に関わるからだけではないように思えてきましたわね。

 まあ、実の父親の結婚に関することなのですから、必死になるのも仕方がないのかもしれませんけれども、なんでしょうか、不思議とそれだけじゃないように思えますわ。

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