8-6 (ロルフ)
突然親父が来たのも驚いたが、お嬢様が親父に対してものすごく友好的なのにも驚いた。
俺やサーヴを除けば、兄君に対してだって一定の壁を作っているお嬢様が、親父に対しては心の底からの笑みを向け、自らお茶を入れてもてなすほどだ。
そして親父もまた、そんなお嬢様に鼻の下を伸ばしてデレデレと、誰がどう見てもあからさまな好意の視線を向けている。
いや、お嬢様は気が付いてないな、うん。
「アベリル様とおっしゃるのですね。私はご存知のようですがグレタと申しますの。今はこうしてここでおのんびり過ごしておりますのよ」
「わかるよ。俺もつい先日までここでのんびり寝て過ごしてたからな」
「まあ!ではもしかしてあの小部屋のベッドはアベリル様の物でしょうか?ごめんなさい、持ち出してしまいましたけれどお返しいたしますわ」
「いや、よければ使ってくれ。快適な眠りを得すために作り上げたものだから、グレタに使ってもらえると俺も嬉しい」
「そうですか?ではそうさせていただきました」
「もし不自由があったら言ってくれ、手配しよう」
「そんな、申し訳ないですわ」
「グレタの為なら構わない。いずれ俺の元に嫁いでくるのだからな」
「はい?」
「「はあ?!」」
「了承してもらえてうれしいよ」
何を言い出した?何を言ってるんだこのアホ親父は!嫁とかお前7歳の子供に何を言ってるんだ?
しかも了承してないし、明らかに聞き返しの言葉だっただろうが!何を勝手にいい方に解釈してるんだよ!
ほらっサーヴなんか鬼の形相で持ってるお盆を二つに折りそうな勢いじゃないか、怖いんだけど。
お嬢様は首を傾げたままフリーズしてるし、なにこの状況おかしいだろう。何一人幸せそうな顔で席を移動してお嬢様の隣に座ろうとしてるんだよ親父。
「魂の番というものを知っているか?」
「不勉強で申し訳ございません」
「魔王やそれの近親にあるもので、魂が結ばれた番が存在するんだ。俺の魂の番はずっと現れなかった、数千年の間、俺はそれを寂しいとも思わなかったが、グレタと出会ってそれが間違いだったと時間をかけてて分かったんだ。真祖にはもう伝えてある」
「真祖と申しますのは?」
「魔王を生み出した神々の対になる存在だ。母親のような物だと思ってくれていい。魔王を束ねて普段は自分の作ったダンジョンの奥深くで、眠りについている」
「そうなのですか」
「挙式は面倒だから上げなくてもいいだろう。だがグレタには花嫁衣裳を贈るからぜひ来て初夜に俺の寝室にいてくれ」
「はい?」
「わかってくれてうれしいよ」
だから違うだろう!くっそ突っ込みたいのに無駄に魔王の力を発揮して、金縛りの魔術を俺とサーヴにかけて来てやがるな。
激しくツッコミたい!
「私、まだ7歳になったばかりでございますので」
「そうだ!その祝いにいくつか陽の少ない場所でも育つ植物を持ってきたんだ。スミレは持っているとのことだったから、ほかの花にしてみた。気に入ってくれると嬉しいんだが」
「まあ!うれしいですわ。ありがとうございます」
うわぁ、かわいい笑顔。・・・じゃねーって!
話それてる!お嬢様話を戻してくれ!むしろ魔術をときやがれクソ親父!
「今色々な小部屋の発見を趣味にしておりますのって、秘密でしたのに話してしまいましたわ。サーヴ、怒らないでくださいませね?・・・サーヴ?」
「っ・・・お嬢っ様!危ないことはなさいますなと申し上げてましたでしょう!」
「ごめんなさい。でも、探検も時に必要でしょう?」
「何かあったらどうするのですか!次からは私も付き合いますからね!」
「わかりましたわ」
違う!そうじゃないから!
「探検が好きとは俺の番はなかなかの根性の持ち主だな。その気がいは素晴らしいと思うぞ」
「ありがとうございます」
あ、サーヴにまた金縛りがかけられたな。
「幼い姿のまま俺の花嫁になって時を止めるのもいいが、どうしたい?」
「あの、そもそも嫁ぐというのはどういうことなのでしょうか?魂の番というのはわかりましたが、お嫁に行かなければいけなのでしょうか?私、実は18歳で死んでしまうという体験を夢で致しまして、ここでのんびり過ごそうと決めておりますので、あまり表には出たくないのですが」
「いいな、怠惰な生活というのは素晴らしいものだ。俺は怠惰と堕落の象徴のような存在だし、その魂の番もそのようにしてもらって構わない」
「そうなのですか。でも嫁いだからには、それも魔王に嫁ぐともなればすることはたくさんあるのではないでしょうか?」
「そこまで気にするほどの物はない。好きに過ごしてもらって構わないんだ。ただし、浮気は困る。嫉妬の魔王ほどではないが俺だって番が他の者に気を向けたら良くは思わない」
だからなんで結婚とが前提の話しになってるんだよ。
お嬢様も気が付こうよ、おかしいだろうが。
あ、お嬢様って王族だから子供のころに結婚とか、もしかして疑問に思わないのかもしれない。
なるほど、王族だった弊害ここで出てくるのかよ!
「嫁ぐからには、嫁いだ相手にお仕えするのが妃の役目と存じております。ところで、私は何番目の側妃になるのでしょうか?」
「側妃は面倒だからいない。子供が何人かいるが、きにしないでいい。グレタは正妃として俺と同じ権限を手に入れるんだ。血の契約を交わして永遠に一緒に居よう」
俺の他にも子供がいるのかよ!初めて知ったぞこの野郎!
しかしまずいな、このままだとお嬢様は流されて結婚してしまうかもしれない。っていうかしそうだな。
奴隷の主人が継母になるとか複雑な事になるからやめてくれ。
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